リニアリティって何だ?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
おそらく2020年は日本の自動車のビンテージイヤーになると思う。20年のクルマたちは、もっと総合的な能力で世界トップといえる実力を持っている。その総合力とは何かといわれると、それはおそらくリニアリティの圧倒的な向上だ。
具体的にいえば、コインパーキングの閉じたフラップを乗り越えるようなシーンで、タイヤに必要なトルクを正確にかけられ、自分が思った速度でそれを乗り越えられること。レスポンスの遅れや、踏みすぎで加速度が想定を超えて、輪止めに強く当たったりするのはダメだ。
ここでいつも例えに出すのが醤油(しょうゆ)差しで、一滴でも二滴でも使いたい量が正確に出せるのが良い道具。コントロールできずにドバッと出るのはダメな道具。そしてそういうコントロールが優れていることに比べれば、真っ逆さまにした時どれだけ大量に醤油が出るかなんてことはほとんどどうでもいい。
ハンドルも同じだ。少し切ったら少しだけラインを変えられること、そしてタイヤの支持剛性の不足で、ステアリングが一定なのにも関わらずタイヤの向きが勝手に変わらないことが大事だ。ブッシュのたわみで少しタイヤのスリップアングルが戻るのは嫌だし、それ以前に切れ込んでしまうようなシステムでは使い物にならない。
まあ現実問題として、支持剛性不足で切れ込むようなクルマには遭遇したことがない。エンジニアリングのセオリーとしてあってはならないことになっているので、勝手にオーバーステア方向になるようなフロントサスペンションのセッティングはまずない。しかしそれを恐れるあまりに、あるいはそちらの方がより安全だと考えてアンダーステア方向、つまり舵(かじ)が戻る方向へ仕立ててあるクルマは少なくない。
そういう「逃げ」た考え方を廃し、切ったら切った分だけ曲がり、「舵角(だかく)を変えない限り、その進路が変わらない」。当たり前のようだがそれが理想だ。ここ数年、新たにデビューする日本車に少しずつそういう変化が起こりつつある。それを筆者はとても嬉しく思っているのだ。
というのがシーンごとに切り取ったリニアリティの話なのだが、2020年の良くできたクルマたちに共通するのは、過渡特性の作り込みだ。
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