リニアリティって何だ?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
おそらく2020年は日本の自動車のビンテージイヤーになると思う。20年のクルマたちは、もっと総合的な能力で世界トップといえる実力を持っている。その総合力とは何かといわれると、それはおそらくリニアリティの圧倒的な向上だ。
過渡特性とリニアリティ
さてそもそもリニアとは何かというと数学的には一次関数のことを指す。つまりグラフが曲線ではなく直線になる関係性だ。クルマの世界でいえば、大抵は縦軸が変位で横軸が時間になる。ごく簡単に言えば、比例といっても良い。
リニアを目指す意味は、この一次関数的な予測のしやすさにある。「これだけ踏んでこれだけ加速するのだから、この倍踏めば倍加速する」。そういう関係は分かりやすいからコントロールしやすい。
だがしかし人の感じるリニアリティは、数学的なリニアリティと結構違うから問題なのだ。等速運動を実は人は唐突に感じる。またもや変なことを言い出すが、ちょっとロボットダンスをイメージして欲しい。ロボットダンスの動きは、速度ゼロから一気に目標速度で起動し(あくまでも理想的に考えれば)、その速度を保ったまま目標座標まで移動して、そこでまた速度ゼロになる。
あれは人の人らしい動きよりずっとカクカクしている。全く自然ではない。だからよほど練習を積まないとああいう等速運動の動きを人間はできない。実際の人の動きをちゃんと研究してみると、速度変化は二次曲線的なのだ。
例えば、目の前のコーヒーカップを取って口に運ぶ時、持ち上げる時は静かにゆっくり持ち上げ、やがて速度が頂点に達してから減速を始めて、最終的に口のところで速度がゼロになる。
この動きをグラフにするとベルカーブになる。本来ベルカーブとは統計における正規分布を示すもので、ここでいっているのはベルカーブの学術的な概念と切り離された。グラフの曲線イメージの共有でしかない。
しかし、マツダのエンジニアもトヨタのエンジニアも近年、期せずして同じようにベルカーブという比喩を用いている。スバルのエンジニアは反応時間でその部分を語る。
つまり、クルマの操作系におけるリニアリティとは、数学的なリニアではなく、人の感性を中心に置いて、人がリニアに感じる加速度を導き出すという話であり、それをグラフにすると、ベルカーブ的曲線になるという話である。
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