リニアリティって何だ?:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
おそらく2020年は日本の自動車のビンテージイヤーになると思う。20年のクルマたちは、もっと総合的な能力で世界トップといえる実力を持っている。その総合力とは何かといわれると、それはおそらくリニアリティの圧倒的な向上だ。
また違う例えを挙げてみる。いわゆるCGアニメーションを見ていて、人の動きが不自然な場合があるだろう。動作の起点から終点までの移動距離と時間を想定し、その時間あたり変位を秒間24コマに均等に割り付けると、これがまさにロボットダンス的になる。本来であれば、例えば1秒24コマをベルカーブにプロットして、それぞれ移動距離を変えていかなくてはならない。言い方を変えれば「加速度を均等化」をしないと、人の動きのようにならない。
最近になって、やっとそういうことができるようになってきた。少し前まで、ロボットのようなギクシャクした動きが嫌なら、ZOZOスーツのように人体各部に座標のマークポイントを取り付けて、リアルな人間の動きを撮影し、それをCGキャラクターにトレースさせないと人間らしい動きにならなかった。これをモーションキャプチャーという。そんな面倒なことをしないと再現できないくらい人の動きは精妙にできているのだ。
次々にいろんな例えを持ち出して、何が言いたいのかといえば、リニアリティとは、時間に対する変位量をうまく案分することだと主張したいのだ。それこそが過渡特性のデザインである。
現実のクルマの設計でも、昨今、多くのエンジニアが過渡特性について熱心に研究している。「そんなこと今まで分からなかったのか?」という声もあるだろうが、こういう微細な変位量の割り振りをするには、その変位量を受け止めてちゃんと差異にできるだけのシャシー剛性が必要なのだ。変位を一生懸命織り込んでも、そういう全てをシャシーの変形が飲み込んでしまったのでは意味がない。
反対側から見れば、シャシーの剛性があるところまで到達した結果、リニアリティをもっと子細に研究する意味が出てきたとも言えるのである。
高剛性シャシーを安価に作れる。そういう技術があってこそ、始めてリニアリティの高い操作系を与えることができる。そういうことを日本メーカー各社が偶然にも同じようなタイミングで迎えた。それこそが20年のビンテージイヤーを作り出したと筆者は考えている。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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