アイデア募集したら不正告発! 「政商」群がる? デジタル庁は大丈夫か:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
「デジタル改革アイデアボックス」をご存じだろうか。菅総理肝いりで進めているデジタル庁の創設に向けて、みなさんからアイデアを募集しているが、そこに「内部告発」が届いたのだ。「デジタル庁は大丈夫なの?」と思われたかもしれないが、筆者の窪田氏は違う見方をしていて……。
デジタル社会の最大の障壁
それを象徴するのが、2017年の東レの品質データ不正だ。
実はこの不正、発覚してから1年以上も公表されなかった。東レ社内では公表する気などサラサラなく伏せておくはずだったのである。しかし、その方針が一転して社長の謝罪会見を催すことになったのは、ネットの掲示板に不正を告発されてしまったからだ。会見で、日覚昭広社長はこの書き込みがなかったら公表しなかったと認めている。
榊原定征・経団連会長を輩出した名門企業が、匿名のネット告発に屈した事実は重い。そこからの2〜3年、SNSやネットが起点となって大炎上した大企業がいくつもあることからも、時代の変化を身をもって感じていただけるのではないか。では、このようなデジタル内部告発が完全に市民権を獲得した今、デジタル庁創設にまつわる不正・癒着の指摘に対して、日本政府はどう向き合うべきだろうか。
これまでの霞が関の常識ならば、そんな書き込みなどなかったよな感じでスルーだが、もし本気でデジタルイノベーションを起こしたいのなら、ささいな疑惑であろうとも、事実と異なる言いがかりのようなことでも、タン氏のような「徹底した透明性」をもって迅速に対応すべきではないのか。
もちろん、役所の縦割りと同様で、永田町や霞が関の「大事なことこそ密室で」というカルチャーはそう簡単に打破できない。記者クラブの自由化や、政府のやっていることにもっと透明性をという議論になると、どこからともなく、限られた人間だけで物事を決めることの重要さや、良識のあるエリートが情報をコントロールすることの安全性を説く、「密室大好きおじさん」が現れて屁理屈をこねる。
何でもかんでもオープンにすればいいわけではない。国民が誤解をするような恐れもあるので、われわれがしっかりと情報は精査して、報道機関にちゃんと出せばいい。そもそも、政府の議論やメンバーをフルオープンにするなど現実的ではないとかなんとか。
タン氏の言っていることや、やっていることは、この国のエリートたちからすれば、「非常識」極まりないヨタ話なのだ。
実はデジタル社会の最大の障壁は、システムがバラバラだなんだとかいう技術的な話などではなく、ムラ社会の中での足の引っ張り合いにいまだに生きがいを感じてしまう、「密室大好きおじさん」なのかもしれない。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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