連載
運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。
富士急行の4倍の運賃だがユングフラウの半額
富士山登山鉄道は富士スバルラインを置き換える形で建設される。最も有力な方法はLRT(次世代型路面電車)だ。道路併用軌道とすれば消防、救急、警察などの緊急用自動車の通行も可能になる。もちろん鉄道に支障がある場合のバス代行も可能だ。
その富士スバルラインの距離は片道約30キロだ。この距離で鉄道運賃を比較すると、JR東日本の幹線では510円。大手私鉄では400円前後となる。地方鉄道の相場はもっと高く、近隣の富士急行の最長区間は大月〜河口湖間26.6キロで運賃は1170円になっている。それでも富士山登山鉄道の運賃は4倍を超える。
往復1万円、年間300万人で年間収入300億円とは、いかにもどんぶり勘定のような気がする。理事会でも「維持管理費などを含めた予測が粗い」という指摘があった。ただし、報道を見る限り「運賃が高すぎる」という意見の記述は見当たらない。
そのような意見があるか否かは、富士山登山鉄道構想検討会の公式サイトに議事概要が掲載されるまで待たなくてはいけない。しかし運賃は利用者の大きな関心事であり、運賃について報じられないとなれば、往復1万円については異論がなかったと思われる。なぜなら、国際的な視野で見れば、これでも安いくらいだからだ。
関連記事
- 北海道新幹線「函館駅乗り入れ」の価値とは? 80億円で実現可能、道内経済に効果
北海道新幹線の函館駅乗り入れ構想に関する資料を入手した。現状、新函館北斗駅を新幹線駅とし、函館駅には直通していない。建設費80億円程度で乗り入れを実現する方法とは? 本州や札幌から新幹線で函館駅に行けるようになれば、経済への波及効果も見込める。 - リニア駆け引きの駒にされた「静岡空港駅」は本当に必要か
富士山静岡空港を利用した。コンパクトで機能的、FDAという拠点会社があることも強みだ。しかし、アクセス鉄道がない。空港駅はリニア工事問題で引き合いに出された不運もあった。新幹線ありきの計画を見直し、静岡県民のために最も良いルートを検討してもいいのでは。 - 「北斗星」の現状に失望と期待 鉄道クラウドファンディング“成功の条件”とは
「北斗星」の保存を目的としたクラウドファンディングに参加したが、現地を訪れて、車両の傷みが進んだ姿にガッカリした。だが、今後に期待できる事業も動き出した。車両保存はゴールではない。維持補修作業のスタートだ。将来を見据えたプロジェクトでないといけない。 - がっかりだった自動運転バスが新たに示した“3つの答え”
小田急電鉄などが手掛ける自動運転バスの2回目の実証実験が行われた。1年前の前回はがっかりしたが、今回は課題に対する現実的な解決策を提示してくれた。大きなポイントは3つ。「道路設備との連携」「遠隔操作」「車掌乗務」だ。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.