ミシュランの星を獲得したタイの「屋台めし」 70代女性シェフが究極の「顧客体験」を提供できている理由:食の流行をたどる(5/5 ページ)
タイのストリートフード(屋台めし)がミシュランの星を獲得した。筆者は2019年、店舗を実際に訪れたことがある。感動のあまり涙を流してしまった「カスタマーエクスペリエンス」とは。
ジェイ・ファイから学ぶ外食の価値
同店の取り組みからどんなことが学べるのだろうか。
1つ目は、ジェイ・ファイ自身の食にかける情熱と、自身の調理スキルへの自信だ。彼女は30歳でジェイ・ファイの前身となる屋台に立って、朝の5時までチキンヌードルを売ってきた。70代になる今まで、ずっと料理を続けてきた。そのやりきる姿勢と、やり続けたことへの自信が、魅力になっている
2つ目は、職人としてのプロ意識と高いスキルだ。人気店になって、行列ができても、素材の選定にこだわって仕込みにも口出しする。絶対に手を抜かない、そして、全ての料理を絶対に自分でつくる。筆者が訪れた際、ジェイ・ファイがつくった料理を、近くにいたスタッフがお皿に盛っていた。その汚れに気付き、彼女自身がお皿を拭いているのを目にした。「ローカル食堂のおばちゃん」ではなく、まさにシェフである。
3つ目は、チャレンジを続けることだ。これだけ人気店になっても、既存メニューの質を向上させるだけでなく、汁なしトムヤムを開発するなど、研究熱心だ。看板メニューの蟹オムレツは、日本のオムレツを参考にしたものだそうだ。
4つ目は、差別化戦略だ。ジェイ・ファイは今のお店をオープンする前、屋台を営業していた頃から、近隣が10バーツ程度のヌードルを提供する中、高品質なブラックタイガーを仕入れて1杯120バーツのパッタイ(タイ版のやきそば)を提供していた。こういった努力の末、確固たる地位を確立したのだ。
世界中の美食家を魅了させるストリートフードが完成した背景にはこういった要素があるのではないか。
新型コロナウイルスの影響が落ち着いたら、ジェイ・ファイに行きたい。そして、あの感動をもう一度体験したいと思う。
著者プロフィール
有木 真理(ありき まり)
「ホットペッパーグルメ外食総研」上席研究員。1998年、同志社大学を卒業後、外食チェーン店へ。6年間勤務したのちに、フリーのフードコーディネーターに。2003年、リクルートに入社し、『ホットペッパーグルメ』に従事。全国の営業部長を経たのち、2017年、リクルートライフスタイル沖縄の代表取締役社長を務めると共に、「ホットペッパーグルメ外食総研」の上席研究員として、食のトレンドや食文化の発信により、外食文化の醸成や更なる外食機会の創出を目指す。自身の年間外食回数300回以上。ジャンルは立ち飲みから高級店まで多岐にわたり、全国の食に詳しい。趣味はトライアスロン。胃腸の強さがうりで1日5食くらいは平気で食べることができる。食を通じて「人」と「事」をつなげるイベントオーガナイザーも務める。自らが「トレンドウォッチャー」として情報発信を行う。
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