ビンテージイヤーに乗った特筆すべきクルマ(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
さて、筆者は2020年は日本車のビンテージイヤーであると主張しているが、まずはその前編。2020年を代表するクルマとして、トヨタ・ヤリスの3兄弟である、ヤリス、ヤリスクロス、GRヤリスを取り上げる。
従来のようにベルトコンベアで動き続ける車両にパーツを組み付けていくのでは組み付け精度に限界がある。そこで組み付けの際は高精度ジグに車両を固定して、熟練工が手作業で部品を組む。この部分がセル方式なのだが、通常セル方式といったら、完成までそこで動かさずに組むものである。トヨタは作業を幾つにも分割し、セルである工程を終えると無人搬送車で次のセルへの製品を運ぶ。つまりセル方式とコンベア方式のハイブリッド手法を生み出した。
これで何を実現しようとしているのかといえば、モータースポーツの世界の車両のファインチューンである。例えば市販車ベースで改造範囲の少ないクラスのレースで勝つためにトップチームが何をやっているかといえば、エンジンを複数買ってきて当たりのエンジンを探し出して搭載したり、もっといえば全部バラして、バランスを取ったり、部品の公差のばらつきの中から中央値に近いものを選別して組み付けたり、その組み付け精度を手作業で向上させたりということが行われている。
それはそうすれば勝率が上がるからで、逆にいえばレースの世界では「いいクルマを作る」手法が確立していたのである。ところがそんな手間暇のかかることはメーカーではできない。そう従来は思われていたのだ。
しかし確実にいいクルマができるノウハウがそこにあるのに指を加えて見ている必要はない。全部は取り入れられないが、部分的にでも新車の生産に取り入れる方法はないのか? トヨタはそう考えた。その結果、セルで高精度組み立てをして、それを搬送車でつなぎ、結果的にライン的に一台を作り上げてる方法を確立したのだ。
これはおそらく生産の革命である。そしてGRファクトリーの現場から、通常のベルトコンベアラインでも可能なことはどんどんノウハウが供給されていくだろう。それは安くて信頼性が高いトヨタが、クオリティで尊敬されるメーカーへと変わっていく可能性をもたらした手法だといえる。
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