ガソリン車禁止の真実(考察編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/6 ページ)
「ファクト編」では、政府発表では、そもそも官邸や省庁は一度も「ガソリン車禁止」とは言っていないことを検証した。公的な発表が何もない。にも関わらず、あたかも30年にガソリン車が禁止になるかのような話が、あれだけ世間を賑わしたのはなぜか? それは経産省と環境省の一部が、意図的な観測気球を飛ばし、不勉強なメディアとEVを崇拝するEVファンが、世界の潮流だなんだと都合の良いように言説を振りまいたからだ。
市場経済を捨てる気か?
問題は、今の「EV一本化」に持ち込もうとする人々が、自然淘汰を待たず、マーケットの意思をねじ曲げてでも拙速(せっそく)に結果を変えようとしていることだ。仮に政府が、マーケットは間違っている。われわれこそが経済を正しく計画して、企業活動を導くのだというならば、それはもう市場経済ではない。計画経済であり社会主義だ。スターリンの第一次5カ年計画みたいなことを言っている自覚があるのだろうか?
市場経済の最も優れている点は多様性にある。多様性があったから馬の時代に自動車という提案が現れたのだ。市場経済に対し、対立的に計画経済を置いた時、短期では確かに計画経済は効率が良い。それぞれが自由な意思でリソースを配分する市場経済では、リソースを一点に集中することができないからだ。一方で計画経済は、他の発想を禁じ、指導側が立てた計画に国家の全てのリソースを集中するから、結果が出やすい。
道路を作るとなれば、住人を強制的に移転させ、原発を作るなら反対する者を拘束する。そうやって徹底した選択と集中をすれば、幸せになるのだろうか? 現実の話としては、最適化を進めすぎると、いつかは進化の袋小路にたどり着く。セカンドプランもサードプランもない計画経済はそこで壊死を起こす。それが歴史の真実だ。
「CO2を削減する」という命題に対して、手段をEVに限定するのは間違っている。例えば、ダイハツのミラ イースの燃費は、JC08でリッターあたり35.2キロだ。CO2排出量に換算すると走行キロ当たり65.9グラムと、驚くべきことにCAFEの30年規制、それは取りも直さず極めて難しいといわれたパリ協定の中期目標を意味するが、これに迫る数値を出している。それを高効率のガソリンエンジンとCVT、それに車体の軽量化だけで成し遂げているのである。
ハイブリッドでもマイルドハイブリッドでもない。ただのガソリンエンジンであるにもかかわらずだ。だからそれだけの性能のものが僅か86万円で買える。EVは価格の下方硬直性に阻まれて、この価格帯をカバーできる日がいつになるのか皆目分からない。その途方もない技術を、「EVではないから」と禁じる愚かさを反省すべきだろう。
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