「第2青函トンネル」実現の可能性は? “2階建て”構想の深度化に期待:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
2020年11月、「第2青函トンネル」構想の新案が発表された。2階建てで、上階に自動運転車専用道、下階に貨物鉄道用の単線を配置する案だ。鉄道部分は輸送力が足りるか。急勾配も気になる。だが、新トンネルは必要だ。設計の深度化を進めて実現に近づいてほしい。
新聞は正月特集で未来感のある記事やコラムを紹介する。鉄道の新路線や技術の話題は格好の材料だ。2018年は日本経済新聞が「奥羽新幹線」構想を紹介した。19年は河北新報が「秋田新幹線新ルート」、神奈川新聞が「市営地下鉄あざみ野〜新百合ヶ丘延伸」に触れた。20年は北海道新聞が「新千歳空港駅移転拡張」、共同通信が「JR東海の在来線新型車両開発」を報じている。スクープ記事ではなく、新春ネタ用に温めているようだ。
21年の正月は「第2青函トンネル」だ。日本経済新聞電子版が1月2日に「『第2青函トンネル』現実味? 巨大インフラの皮算用」と題した記事を配信した。これは北海道経済連合会が20年11月2日に札幌で開催したシンポジウムで、JAPIC(日本プロジェクト産業協議会)によって発表された内容だ。JAPICは建設会社や商社など全国200の企業・団体が参画し、産官学の連携で国家的諸課題を研究する組織。一般社団法人である。
「津軽海峡トンネル」構想図。鉄道は単線。道路は自動運転車限定で、通行料金は大型車1万8000円、乗用車9000円。自動運転できないクルマは自動運転トラックに載せて運ぶ。割増料金が必要(出典:JAPIC 今後推進すべきインフラプロジェクト【構想事例I】)
北海道新聞は11月22日に「第2青函トンネルに新案 産業協議会 上に自動運転車、下に貨物列車 関係者『集大成に近い』」という記事で、「年内に国土交通大臣に提案する」と紹介した。提言書は12月9日に赤羽一嘉国交大臣に手渡された(関連リンク)。
提言書のうち、第2青函トンネル改め「津軽海峡トンネル」は【構想事例I】としてJAPICのサイトで公開されている。詳細はその資料を読んでいただきたい。この資料の公開前、20年11月の記事では、大型シールドトンネルのイラストのみ公開されていた。トンネル内部を2階建てとし、上階に自動運転自動車専用道(片側1車線)、下階に貨物鉄道用の単線と緊急避難通路を配置する。
この時点で、2つの疑問が生じた。鉄道部については、総延長31キロの単線で輸送力は足りているか。道路部については、自動運転技術がそれほどあてになるか。自動運転について私は明るくないので他の識者に任せるとして、鉄道部はどうか。
関連記事
- 北海道新幹線「函館駅乗り入れ」の価値とは? 80億円で実現可能、道内経済に効果
北海道新幹線の函館駅乗り入れ構想に関する資料を入手した。現状、新函館北斗駅を新幹線駅とし、函館駅には直通していない。建設費80億円程度で乗り入れを実現する方法とは? 本州や札幌から新幹線で函館駅に行けるようになれば、経済への波及効果も見込める。 - 運賃「往復1万円」はアリか? 世界基準で見直す“富士山を登る鉄道”の価値
富士山登山鉄道構想について、運賃収入年間約300億円、運賃は往復1万円という試算が示された。LRTなどが検討されている。現在の富士スバルラインと比べると5倍の運賃はアリなのか。国内外の山岳観光鉄道を見ると、決して高くない。富士山の価値を認識する良いきっかけになる。 - 「終電繰り上げ」は再成長の準備 2021年の鉄道ビジネス、“前向きなチャレンジ”が闇を照らす
鉄道業界で、2020年を“どん底”にして21年を上向きにしていく手掛かりとは? 終電繰り上げは経済に影響を与えるが、再成長に向けて今やるべきことだとも捉えられる。厳しい旅行業界では“趣味性の高い旅”が回復の鍵だ。つらい状況でも前向きなチャレンジを応援したい。 - こじれる長崎新幹線、実は佐賀県の“言い分”が正しい
佐賀県は新幹線の整備を求めていない。佐賀県知事の発言は衝撃的だった。費用対効果、事業費負担の問題がクローズアップされてきたが、これまでの経緯を振り返ると、佐賀県の主張にもうなずける。協議をやり直し、合意の上で新幹線を建設してほしい。 - 北海道新幹線札幌駅「大東案」は本当に建設できるか
もめにもめた北海道新幹線札幌駅問題は、JR北海道が土壇場で繰り出した「大東案」で関係者が合意した。決め手は「予算超過分はJR北海道が負担する」だった。これで決着した感があるけれども、建設業界筋からは「本当に作れるか」という疑問の声がある。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.