コロナ・ショック後の回復が遅れるJ-REIT市場:KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)
行動制限やロックダウンなどの影響で、世界的に株式やREITの価格が急落した後、J-REIT市場は株式市場に比べて回復が遅れている。現時点で、REITは割安と考えている。足元、底打ち感が出てきたとはいえ、今後の経済正常化を十分に織り込んだ水準には回復していない。
割安であると考える理由
現時点で、REITは割安と考えている。これまで述べてきたように、足元、底打ち感が出てきたとはいえ、今後の経済正常化を十分に織り込んだ水準には回復していない、とみている。
前述した悪材料に応じて考えると、(1)今後、ワクチン接種が進むことなどで経済が正常化すると、オフィスの空室率の上昇・家賃収入の減少の鈍化や反転が期待できる、(2)テレワークの増加が予想される一方で在宅勤務の困難さもよく知られるようになり、近郊の駅前のオフィス・ビル需要が増大するのに伴って、アクティブ運用のREITで銘柄入れ替えも進むと期待される、(3)REITの分配金も(1)・(2)の点から底打ちが期待できる、(4)主要投資家である銀行の市場への回帰の兆しが見え始めている、といったことが注目されよう。現時点は、これらの状況が市場参加者に十分に浸透していないことから「割安」な状態にあると考えている。
REIT投資は値上がりよりも分配金利回りが大事
経済が正常化すれば、REIT価格は論理的には元に戻ると考えている。ただし、価格の上昇は分配金の引き上げを確認しながらゆっくりと進むだろう。
REIT価格(東証REIT指数)は2009年以来、上昇基調にあるが、分配金利回りは12年ごろから4%前後(3〜5%のレンジ)で推移しており、債券利回りと比べておおむね優位性がある。もちろん社債を含めた債券と比べれば償還も分配金支払いの約束もないのでリスクに応じて利回りが高いのだが、家賃収入を裏付けとなっていることから、都市開発などを行う不動産株の配当金よりも高水準で安定することが期待できる(なお、コロナ・ショック後の分配金利回り上昇は、分配金引き下げリスクから価格が先回りして下落したことなどによる)。
2008年のリーマン・ショック以降、市場としての厚み・信頼感が増したことによる価格上昇が顕著だったため、REITへの投資が「価格上昇を期待する投資」と誤解されやすい。もちろん価格が上昇する可能性はあるが、長期投資を前提とした個人投資家にとっては、値上がり益を狙う売買の対象と考えるより、家賃収入を分配金にして受け取る、いわば「少額出資でもなれる大家業」ととらえるほうが適切だ。
また、日本銀行がJ-REIT市場に介入し、継続的に買い入れていることは意外に知られていない。日銀が買い入れる理由は、「リスク・プレミアム介入」と呼ばれ、株式のETFや社債の買い付けとともに、人々に安心感を与え、経済活動を活発化させ、ひいてはデフレ状況から脱却することにある。
日銀は年間の買い入れ目標額を公表(年間1800億円、20年3月に年間900億円から増額)しているが、状況を見ながら買い入れの金額や回数を柔軟に増減させている。日銀の介入は買い上がるためではないので、投資家が「日銀が買い支えるから安心」と思うのは間違いだが、市場の参加者に厚みを与え、流動性を高める効果があり、市場としての信頼感を保つには役に立っている。
20年のコロナ・ショックをREITの家賃の問題として見直すと、“今は家賃が入ってくるかどうか不透明だが、経済が正常化すれば安定するだろう”、“仮に都心部の古いオフィスビルの人気が低下しても、人気がある新しいオフィスや地方中核都市のオフィスビルなどに物件を入れ替えると良いだろう”といった対応が期待できる。投資家は、「大家」のように投資と収入について考えることができるのだ。REITは、金融市場の歴史において画期的な発明なのである。
筆者:神山直樹(かみやまなおき)
日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。
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