アパレル、インテリア、食料品、日用品……オンラインを主戦場にしてきた「D2Cブランド」がリアル店舗を持つ目的は?:小売の原点回帰か?(3/3 ページ)
中間業者を使わず自社で企画から販売を行うことで、低価格で製品やサービスを提供するビジネスモデル「D2C」。D2Cブランドがリアル店舗を持つ目的は何なのか。今後どのような進化を遂げていくのか。
日本のD2Cブランド事例
日本でもD2Cブランドは増えつつある。ファブリックトーキョーは、オーダーメイドの紳士服は高額で特別な人のものという概念を打ち破り、手頃な価格でオーダーメイドのビジネススーツを提供している。彼らは、大手企業の丸井と業務提携を行い、丸井の新業態である“売らない店”の1つとして、消費者にブランド体験やコミュニティーの場としてのリアル店舗を作った。
逆にリアル店舗を運営する側から、D2C領域に参入したのが、大手アパレルのレナウンだ。消費者の価値が所有価値から利用価値に変化したことや環境問題への関心の高まりなどで、ビジネススーツの市場は2007年以降、4割程度落ち込んでいた。その状況を打破するべく、レナウンは長年培った紳士服作りのノウハウを生かし、スーツのサブスクリプション・ビジネス「着ルダケ」を開始した(編集部注:現在は終了)。
「着ルダケ」は、スーツのレンタル以外にもクリーニング、保管、提案、チャット接客サービスを行い、従来のビジネスでは接点のなかった新たな消費者にアプローチに成功し、リアル店舗以外での活路を見いだした。
大手アパレルのワールドもポップアップ型百貨店、246st Marketを手掛けている。そこでは、リアルで見る機会の少ないD2Cブランドや若手クリエイターの作品の商品を期間限定で販売している。ワールドの持つ業界のネットワークや生産リソースを若い起業家に提供する、プラットフォーマーのような役割を果たしている。ワールド側にとっても売上不振の売り場を活用する役割としても意味がありそうだ。
丸井、レナウン、ワールドといった大手企業もさまざまな形でD2Cの領域に参戦している。アパレル不況でモノが売れなくなってきている今、事業拡大や新たな消費者獲得を模索する大手企業にとって、若い世代の消費者とのダイレクトな関係構築を強みとするD2Cブランドは魅力なのだ。
D2Cブランドのリアル店舗進出が意味するのは、小売の原点回帰ではなく、D2Cビジネスモデルの進化を意味していると考えられる。ブランドの世界観を体験するリアル店舗やオンライン上の買い物をサポートする存在のリアル店舗など、消費者の買い物する場所や買い物のスタイルの選択肢がますます広がりつつある。D2Cブランドも大手企業もその対応をせずに、モノを売るということは厳しい時代といえよう。
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