「DS3 クロスバック E-TENSE」 100年に渡る物語が導いたEV:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)
本稿は、米欧2地域にまたがる世界第6位の自動車メーカーが誕生するのに至った歴史的背景の興味深さをひも解くと同時に、この度日本への上陸を果たしたPSAのフラッグシップブランド「DS」のEV、DS3クロスバック「E-TENSE」の立ち位置を解説しようという目論見で書かれている。E-TENSEEにはリアルな未来の先取りを感じるのである。
ところが、面白いことに、DS3クロスバック E-TENSEは、前後にさりげなく添えられたエンブレム以外、ほとんど差異がない。しかもエンブレムの意味を知らなければ、それがEVであることも分からない。つまりはDSにとって、「DSであることの特別感」に比べれば、動力が何であるかはさほど訴求すべきことではないともいえる。
筆者はここがとても面白かった。プレミアムブランドのDSにとっては、高いことはもはや当たり前、そこはことさら言い訳をする必要がない。むしろ、「DSが用意したパワートレインの中から、お好みのものをお選びください」という極めて大人なスタンスが見て取れる。
筆者は2019年3月20日に来日したプジョー・オートモビルCEOのジャン・フィリップ・アンパラト氏のグループインタビューでの、EV化に対する発言を思い起こした。説明の必要はないかもしれないが、プジョーはPSAグループの中心ブランドである。
彼は明確にこう言った。「決定権は顧客にある。ガソリン、ディーゼル、プラグインHV、EV。そういう多様な選択肢の中から、国や地域の規制に応じて最適なパワートレインを顧客が選ぶ。何を選ぶか決めるのはわれわれではない。顧客は王様だ」。何を買うかを決める権利は客にあり、仮に売り手が何を売りつけるかを決められる状況が一時的に存在したとしても、それは健全な状態ではない。あくまでも決定者は買手。それは市場経済にとって当然のことである。
何時の日か、EVが世の中の当たり前になった時、おそらくEVらしさを演出する加飾は無くなる。それは「Turbo」とか「Twincam」というエンブレムが消えていったようにだ。という意味でDS3クロスバックのE-TENSEにはリアルな未来の先取りを感じるのである。
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