ジョブ型とはジョブを定義することではない “人の出入り”前提の競争原理の働くエコシステムだ:雇用管理(2/2 ページ)
ジョブ型への移行を巡っては、批判や懸念も多い。しかし「ジョブ型の本来の姿に照らすと、さまざまな誤解もある」と、マーサー ジャパンの取締役執行役員の白井正人氏は話す。ジョブ型の本質とは。
“人事は戦略に従う”採用システム
では、School to Workは、ジョブ型のエコシステムではどのようになっているのか。「メンバーシップ型とジョブ型の違いを、新卒採用なのか、欠員補充なのかという点だけで捉えてはミスリードする」と白井氏は指摘する。「欧米でも未経験の新卒採用がないわけではありません。営業のジュニア職など、緩やかなジョブを定義しながら未経験で採用することも少なくない。ただ、その採用というものの考え方そのものがまったく異なるのです」(白井氏)
企業によってもちろん違いはあるが、日本企業の新卒一括採用では、既存の社員の人数、定年退職する社員の人数によって例年採用する人数が決まっており、景気の動向で増減させるというのが一般的だ。「数の決定が既存の従業員数ベースで行われます。一方でジョブ型の場合、事業からの逆算で採用する人材要件、人数が決まります。今年は戦略が変わって、ここの事業を強化しなければならない。次世代のために新しい事業を始める。このようなとき、異動は本人同意が前提ですから、そう簡単に人を動かせない。既存の人員で難しい場合には、外部から採用してくるのです」(白井氏)
未経験の新卒も、戦略上必要であれば、当然採用する。事業の方針によって人の入れ替えが行われ、競争力を高める方向に動くのがジョブ型雇用のエコシステムである。
そして、高等教育機関もエコシステムの一部だ。「高等教育機関にとっては、産業界が求める人材を輩出するのが確実な“勝ちパターン”です。そういう意味では、高度成長期に日本の教育と産業が作ったエコシステムは非常にうまくできていたと思います」(白井氏)。従来の新卒一括採用では、職種別採用はほとんど行われず、入社後に配属が決まり、事業戦略が変われば領域や職種をまたいで異動する。「すると、やはり企業が求めるのは、専門性の高い人材よりも、“地頭”がいい人材ということになり、教育内容よりも入試難易度が重要になります」(白井氏)
ジョブ型の競争原理が働くエコシステムではどうか。「マーケットプライスが高まる人材を育成する学部・学科が当然に増えます。そのほうが学生が集まり、大学の経営状態も安定するし、企業からの評価も高まるからです」(白井氏)。今後、企業がジョブ型を選択し、専門知識やスキルを見る採用に変われば、大学はそういう方向に動かざるを得ない。産業界がどのようなエコシステムを作っていくかが、高等教育機関のありようを決定していくといえるだろう。
本記事は『Works』164号(2021年2月発行)「欧米のジョブ型の本質とは。大学との関係を探る」より「雇用管理:ジョブ型とはジョブを定義することではない “人の出入り”前提の競争原理の働くエコシステムだ」を一部編集の上、転載したものです。
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