「世界一勤勉」なのに、なぜ日本人の給与は低いのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
OECDの調査によると、日本人の平均年収は韓国人よりも低いという。なぜ日本人の給与は低いのか。筆者の窪田氏は「勤勉さと真面目さ」に原因があるのではないかとみている。どういう意味かというと……。
コンビニもアパレルも
このように勤勉で真面目な人たちが良かれと思ってしがみつく現状維持が、ことごとく裏目に出て人々を貧しくさせている、という現象は日本のさまざまな産業でも起きている。
例えば、コンビニは顧客のためだと、他国ではありえないほどの豊富な食品や製品を取りそろえ、鮮度がなくなれば廃棄、売れないモノはすぐに引っ込める。そんな過剰サービスが一見すると、モノにあふれた豊かな社会を演出しているが、その高度にはりめぐらされたインフラを支えるため、作業員、ドライバー、コンビニオーナーやバイトは低賃金重労働を強いられている。
アパレルもそうだ。店には信じられない低価格で、高品質な服がさまざまな色、さまざまなサイズが並ぶ。しかし、その裏では売れるのはほんの一部で、すさまじい数の「過剰在庫」でアパレル各社は悩まされている。その苦境のしわ寄せは当然、アパレルビジネスに関わる人々の賃金や労働環境の悪化につながる。
数が多くなければ売れない。種類がなければ選んでもらえない。勤勉で真面目な人たちがそんな風に自分たちを勝手に追い込むことで、需要をはるかに上回る過剰な品ぞろえ、過剰なサービスが提供されている。
そんな「ムダの多いビジネスモデル」は数字的に売り上げはたつが、利益を上げることができない。賃金も上がらないのに仕事だけは過剰になっていくので、現場の労働者はじわじわと疲弊する。そんな「過剰供給」の負のスパイラルから抜け出せない産業構造が、日本人を貧しくさせているのだ。
勤勉さや真面目さが、「過剰」を引き起こして、日本人をじわじわと苦しめているのは、コロナ禍も同じだ。医療従事者を助けろとマスク着用や自粛を叫ぶのはいいとして、頭がカチカチな人たちが、自粛警察やマスク警察になって息苦しい世の中になっている。勤勉にコロナ対応に取り組みすぎて、精神が不安定になって、医療従事者を差別・迫害するような本末転倒な事態も起きている。
このままでは経済的な貧しさもさることながら、心まで貧しくなってしまう。日本人を苦しめる「過剰」の呪いから解き放たれるためにも、そろそろ「日本人は世界一勤勉」みたいな妄想とオサラバすべきではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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