従業員の不正が発覚、どう対応? 調査の進め方、社内処分、刑事告発……気になるポイントを解説:弁護士に聞く(3/3 ページ)
不正に手を染めてしまった従業員を処分することは当然のことですが、解雇や降格など、社内処分が重くなるほど不正当事者との法的紛争に発展するケースが多くなります。本記事では、不正を行った従業員に対する正しい対応について考えます。
4.不正従業員に対する民事上の損害賠償請求
渡辺氏: 先述の例で、従業員が会社資産を流用したような場合、民事上の責任をどこまで追及するべきですか。
西谷弁護士: 不正当事者に対しては、所有資産を徹底的に調べ上げ、必要に応じて自宅その他不動産や預金に対して仮差押手続を申し立てたうえ、話し合いの中で十分な賠償が得られない場合には、民事訴訟を提起し、勝訴判決をもって強制執行まで行う(もし和解が成立すれば和解条件に沿った賠償金を得る)のが近時のトレンドと思われます。
渡辺氏: コストや時間を考えると、民事訴訟まで提起しても経済的に得られるものは少なく、合理的ではないように思われますが、いかがでしょうか。
西谷弁護士: コストや時間ももちろん考慮する必要がありますが、一番重要なことは、不正当事者に対して徹底的に責任を追及することで、社内の役職員に対して厳格な対応方針を示し、再発防止につなげる点にあります。
渡辺氏: 不正当事者が破産手続の申立てをするとどうなりますか。
西谷弁護士: 場合によっては不正当事者が破産手続の申し立てを行うこともありますが、その際は、管財人を通じて資産調査をくまなく行い、可能な限りの配当を求めることと、不正当事者の免責を許可しない意見を出すことが考えられます。
なお、破産手続の実務上、裁量免責が下りないケースはめったにありません。しかし、企業が不正当事者に対して有する損害賠償請求権は「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」に該当すれば免責対象とならないため(破産法253条1項2号)、仮に免責決定が下りたとしても企業としては民事訴訟を提起することが可能です。もっとも、破産するようなケースでは、たとえ民事訴訟を提起したとしても強制執行の対象となるような資産がほぼ存在しないものと考えられますので、破産手続の終了をもって十分に責任は追及したと考え、民事訴訟は提起しないとするのが現実的な対応と思われます。
渡辺氏: よく分かりました。ありがとうございました。
渡辺樹一 一般社団法人GBL研究所
一般社団法人GBL研究所理事。1979年一橋大学法学部卒。USCPA・CFE・CIA。伊藤忠商事その他企業を経て、現在は、取締役会評価、内部統制構築、内部監査支援、役員・幹部社員研修等に従事。早稲田大学非常勤講師、合同会社御園合同アドバイザリー顧問、株式会社ジャパン・ビジネスアシュアランス株式会社シニアアドバイザー、上場会社2社の社外取締役なども務める。日本取締役協会会員、国際取引法学会会員、実践コーポレートガバナンス研究会会員、会社役員育成機構会員。 j.watanabe256@gmail.com
西谷敦 アンダーソン・毛利・友常法律事務所
弁護士(東京弁護士会、NY州)、公認不正検査士、東京大学卒、米国カリフォルニア大学バークレー校ロースクール(LL.M.)修了。大手商社への出向経験(東京・NY)を生かし、主に国内外のM&A、危機管理案件及び事業再生案件について、実地に即したアドバイスを行っている。
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