従業員の不正が発覚、どう対応? 調査の進め方、社内処分、刑事告発……気になるポイントを解説:弁護士に聞く(2/3 ページ)
不正に手を染めてしまった従業員を処分することは当然のことですが、解雇や降格など、社内処分が重くなるほど不正当事者との法的紛争に発展するケースが多くなります。本記事では、不正を行った従業員に対する正しい対応について考えます。
西谷弁護士: 先述の通り、解雇や降格など、社内処分が重くなればなるほど、不正当事者から争われるリスクが高まります。最も重要なことは、事後的にどのように対応するか検討するのではなく、社内処分を下す前に、仮に不正当事者が争ってきた場合でも証拠に基づき企業側が合理的な反論をし、たとえ裁判や労働審判を起こされた場合であっても勝訴できるということを、社内のみならず、労働法専門の外部専門家にも確認したうえで、社内処分を下すことです。
これらの検討を経て下した社内処分について不正当事者が争ってきたのであれば、企業側としても、社内処分の正当性を徹底して主張することが原則となります。
渡辺氏: 社内処分は就業規則の規定にのっとって実施されますが、不正の発覚を機に就業規則を改訂すべき場合はありますか。
西谷弁護士: 実務対応をしていると、対象となった不正行為が就業規則に明示されていない場合や、履践すべき適正手続(労働組合との協議、懲戒委員会における討議、本人の弁明の機会等)が十分に規定されていない場合などが散見されます。
このような場合には、先述(1)(懲戒処分の根拠規定の存在)、(2)(懲戒事由への該当性)および(5)(適正手続の要請)の観点から、後日紛争となることを回避するため、実際に起こった不正行為の内容も踏まえ、就業規則を改訂することが望ましいといえます。
渡辺氏: 懲戒処分を公表することは企業側の不法行為(名誉毀損)となるのでしょうか。
西谷弁護士: 懲戒処分を公表することは、不正の再発防止という観点から合理性が認められる一方で、公表の内容・手段が不相当であれば、名誉毀損として損害賠償請求の対象となることもあるので留意が必要です。
懲戒解雇について記載された文書の配布等が問題となった裁判例(東京地裁昭和52年12月19日判決・判タ362号259頁)では、(1)解雇の事実や就業停止日、あるいは就業規則上の懲戒解雇規定を特定した告示の社内配布・掲示や、(2)元従業員を解雇した結果、会社と元従業員との間には何ら関係がなくなった旨を記載した取引先への葉書の発信については、企業の業務遂行上の必要からなされたものであると認定されました。
しかし、一方で、(3)「社員の皆さんへ」と題する会社名義の文書(注:懲戒解雇の理由として元従業員に極めて重大な不正行為があったことをことさらに強調して非難する内容のもの)を、給与袋に同封する方法で全従業員に配布したうえで、拡大した文書を社内に掲示する等の行為については、名誉毀損が認められ、公表方法・公表内容において社会的に相当と認められる限度を逸脱しており、違法性は阻却されないとされました。
3.不正従業員に対する刑事告発
渡辺氏: 例えば、業務上横領や特別背任に該当する行為をした従業員について、会社が刑事告発をする必要はありますか。
西谷弁護士: 企業不正の再発防止のためには、厳然とした対応が必要であり、刑事犯罪相当の行為があったのであれば、企業としては刑事告発を行うことを当然視野に入れるべきです。
渡辺氏: 民間企業が刑事告発を行っても、捜査機関が対応してくれないのではないでしょうか。
西谷弁護士: 企業から刑事告発を行った場合、社会的な耳目を集めるような大規模な不正であれば別ですが、小規模な事案では、実際には捜査機関が動いてくれないというケースもあります。しかしながら、ステークホルダーに対し、不正当事者の責任を徹底追及した旨を説明するためにも、刑事告訴を行うというスタンスをとるべきであると考えます。
渡辺氏: 不正当事者の協力が得られず、不正調査が難航している場合に、刑事告訴をしない代わりに協力を得るということはありえますか。
西谷弁護士: 不正当事者の責任を徹底追及するという観点からはなるべく避けたいところですが、事実関係と真因を早期に突き止め、再発防止策を策定・実行するという大きな目標を達成するためには、不正行為を認め、調査に全面協力することを前提に刑事告訴をしないという交渉もあり得るところです。
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