従業員の不正が発覚、どう対応? 調査の進め方、社内処分、刑事告発……気になるポイントを解説:弁護士に聞く(1/3 ページ)
不正に手を染めてしまった従業員を処分することは当然のことですが、解雇や降格など、社内処分が重くなるほど不正当事者との法的紛争に発展するケースが多くなります。本記事では、不正を行った従業員に対する正しい対応について考えます。
本記事は、BUSINESS LAWYERS「不正を行った従業員の対応をめぐる諸問題」(渡辺樹一氏・西谷敦弁護士/2021年2月12日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。
不正に手を染めてしまった従業員を処分することは当然のことですが、解雇や降格など、社内処分が重くなるほど不正当事者との法的紛争に発展するケースが多くなります。また、仮に敗訴となれば企業のレピュテーションを毀損するリスクが高まります。
本稿では、企業統治・内部統制構築・上場支援などのコンサルティングを手掛けてきた一般社団法人GBL研究所理事、合同会社御園総合アドバイザリー顧問の渡辺樹一氏と、アンダーソン・毛利・友常法律事務所の西谷敦弁護士の対話を通じて、不正を行った従業員の対応をめぐる諸問題について考えます。
1.不正調査中の対応
渡辺氏: 不正を行ったことが明らかな従業員について、不正調査中はどのような対応をすべきでしょうか。
西谷弁護士: 不正が発覚した場合、企業としては不正の継続を防止する観点から、調査期間中は自宅待機とすることをまずは検討すべきです。
渡辺氏: 例えば、経理部内で経理担当者が単独で行った資産流用などでは、当該担当者しか事実関係を把握していないような場合もあるかと思います。そのような場合はどうしたらよいのでしょうか。
西谷弁護士: 不正当事者に調査協力してもらわないと調査が進まない場合は、通常業務から外したうえで出社してもらい、調査委員会の監視下で業務として調査に協力してもらうことが考えられます。
渡辺氏: それでは、(1)不正当事者本人が調査に協力しない場合、あるいは、(2)不正当事者に対する調査について他の従業員が協力しない場合、どのように説得すればよいでしょうか。
西谷弁護士: まず、(1)の不正当事者本人が調査に協力しない場合についてですが、不正当事者本人は業務命令あるいは就業規則上の職場秩序維持義務に基づき調査協力義務を負うと考えられますので、調査に協力しない場合には懲戒処分となり得ることを説明し、説得することが考えられます。
次に、(2)不正当事者に対する調査について他の従業員が協力しない場合については、他の従業員には当然に調査協力義務があるものではありませんので、注意が必要です。判例上、職場規律違反について従業員の調査協力義務が認められる場合として、以下があげられています(富士重工業事件・最高裁昭和52年12月13日判決・民集31巻7号1037頁等)。
- (i)当該調査に協力することが当該労働者の職責に照らしてその職務内容になっていると認められる場合
- (ii)調査対象である違反行為の性質・内容、違反行為見聞の機会と職務執行との関連性、より適切な調査方法の有無などの諸般の事情から総合的に判断して、同調査に協力することが労務提供義務を履行するうえで必要かつ合理的であると認められる場合
従って、他の従業員が不正当事者を管理・監督すべき立場にある上司であれば(i)に該当しますが、そのような立場にない場合は(ii)の要件を満たす場合に限り、調査協力を求めることができます。
2.社内処分について
渡辺氏: 不正を行った従業員の社内処分(懲戒処分)において、一般的に留意すべき点を教えてください。
西谷弁護士: 懲戒処分にあたっては、労働契約法15条(※1)の規定にしたがい、以下の要件をそれぞれ満たす必要があります(※2)。
- (1)懲戒処分の根拠規定の存在(就業規則上、懲戒処分事由、懲戒の種類・程度が明記されていること。これに関連して、規定が設けられる以前の事犯について遡及的に処分しないこと(不遡及の原則)、同一事犯に対し2回懲戒処分を行わないこと(一事不再理の原則)が求められる)
- (2)懲戒事由への該当性(従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当し、懲戒処分に「客観的に合理的な理由」があること)
- (3)相当性の原則(規律違反の種類・程度その他の事情に照らして相当な処分とすること)
- (4)公平性の要請((3)から派生する要請であり、同じ規定に同じ程度に違反した場合には、これに対する懲戒は同一種類、同一程度の処分とすること)
- (5)適正手続の要請(同じく(3)から派生。就業規則その他の手続規定にしたがい、組合との協議、懲戒委員会の討議、本人の弁明などの手続を順守すること)
(※1)「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」
(※2)菅野和夫『労働法〔第12版〕』(弘文堂、2019)715−718頁
渡辺氏: 不正を行った従業員が複数いる場合、どのように社内処分を決めればよいのでしょうか。
西谷弁護士: 私が企業にアドバイスする場合、先述(3)(相当性の原則)および(4)(公平性の要請)の観点から、調査結果と証拠に基づき、不正の重大性や回数、調査への協力の程度といった諸ファクターを考慮し、不正当事者を罪状が重いグループ順に並べます。
そのうえで、(1)(懲戒処分の根拠規定の存在)および(2)(懲戒事由への該当性)の観点から、就業規則の規定に従って処分内容をグループごとに定めていきます。
特に懲戒解雇や諭旨解雇、あるいは降格といった厳しい処分が含まれる場合、対象となった従業員から争われるリスクがあることを想定し、十分な証拠の裏付けがあるかどうかを慎重に検討する必要があります。
また、当該事案における処分の平等性のみならず、過去の同種事案における社内処分との均衡性も検討する必要があり、また当該事案における処分が将来の同種事案の処分の基準となることも念頭に置く必要があります。
渡辺氏: 具体的な回答でよく理解できました。それでは、もし社内処分を不正当事者が争ってきた場合はどうしたらよいですか。
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