カスタマーサクセス立ち上げ、どうしてつまづいた? “3つの失敗”から学ぶ心得:“顧客との付き合い方”のデザイン法(2)(1/3 ページ)
サブスクリプション型の事業を持つ企業にとって、顧客の解約率を下げて売り上げを最大化するため、カスタマーサクセスの考え方は重要だ。カスタマーサクセスの立ち上げ経験を持つ筆者が、立ち上げの際に陥りがちな3つの失敗とその理由について解説する。
日本にカスタマーサクセスの考え方が広まり、部署を設ける企業が増えたのは2018年ごろだ。“カスタマーサクセス元年”ともいわれた当時から3年が経った。
カスタマーサクセスを概念として知っていても、実務に携わったり、チームをゼロから立ち上げたりという経験のある人材は、まだ多くないのが実情だろう。今回はカスタマーサクセスの概要について触れつつ、実際に筆者がビービットでカスタマーサクセスを立ち上げた際の失敗談も交え、立ち上げ時のポイントを紹介したい。
なぜカスタマーサクセスが重要なのか?
カスタマーサクセスが注目される大きな理由は、ビジネスモデルの変化だ。デジタル化の影響もあり、「売ってからが始まり」のサブスクリプション型のビジネスモデルが急速に普及している。
サブスクリプション型の事業では、顧客が契約を継続することで生まれる利益の割合が事業の根幹を支えるため、既存顧客との関係性強化が経営テーマとして重視されるようになった。
図1は、既存顧客の解約率(チャーンレート)が変わると、事業収益が複数年でいかに変わるかを示した図だ。3年間で解約率を5%から2%に抑えるだけで事業売上は1.5倍、さらに解約率をマイナス5%にまですると実に5倍以上の開きが出る。
なお、解約率がマイナスというのは、既存顧客からの収益が増加していることを意味する。ネガティブチャーンと呼称することもある。
既存顧客への対応という観点で、「カスタマーサクセスとカスタマーサポートはどのように違うのか」という疑問がよくある。大きな違いは、既存顧客からの利益最大化をミッションとして色濃く持つか否かだ。
カスタマーサポートでは「顧客が一定水準で安心して製品を利用できること」を目指していることが多いため、顧客からの問い合わせが活動の起点となる。いわば受動型だ。KPIも対応完遂率、完了までの日数などに置くことが多い。
一方でカスタマーサクセスは解約されては困るので、顧客からの問い合わせがなくても支援が必要であれば、能動的に提供する必要がある。KPIも解約率や既存顧客の売上継続率(いわゆるNRR、Net Revenue Retention)に置くことが多い。
「なるほど、どちらかっていうと営業担当がやっていたことに近いのね」とご理解いただけたなら初段の理解としてはおおむね正しい。ただし、営業が1人で顧客対応をするモデルとも違い、カスタマーサクセスは長期的に顧客を支援し、コミュニケーションの手段も多岐にわたる。そのため、業務や組織の設計が異なってくる点には留意が必要だ。
カスタマーサクセス立ち上げ時に起こる“3つの失敗”
カスタマーサクセスを立ち上げる際にはさまざまなポイントがあるが、ここでは筆者の経験談も踏まえ、陥りがちな3つの失敗とその原因・対策について紹介したい。
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