カスタマーサクセス立ち上げ、どうしてつまづいた? “3つの失敗”から学ぶ心得:“顧客との付き合い方”のデザイン法(2)(2/3 ページ)
サブスクリプション型の事業を持つ企業にとって、顧客の解約率を下げて売り上げを最大化するため、カスタマーサクセスの考え方は重要だ。カスタマーサクセスの立ち上げ経験を持つ筆者が、立ち上げの際に陥りがちな3つの失敗とその理由について解説する。
失敗その1:始めから幅広い顧客の対応をしようとする
1つ目が「始めから効率的に幅広い顧客の対応をしようとする」ことだ。カスタマーサクセス組織を立ち上げたばかりの時はたいてい組織の人数が少なく、それに比べて顧客数は多い。そのため、まずはデジタルを活用してマニュアルの整備やサポートサイトの充実などを行うのだが、こういった活動が失敗するケースをよく見かける。
当社でも一時期「セルフ導入」をスローガンに掲げ、手厚いサポートなしでもオンボーディング(≒利用開始)できる状態をつくるべく、初期設定マニュアルなどのドキュメント類を充実させたことがあった。しかし結果的には、それらの整備した文書は顧客にあまり活用されず、かえって利用開始への心理的ハードルを高くしてしまったことがあった。なぜこういったことが起こってしまうのだろうか。
その原因は、顧客が成功に至るまでの道筋、つまり「成功モデル」がチーム内で描けていないことにある。自社サービスを活用して顧客が“成功している”というのはどういう状態か、またそこに至るためにどのようなハードルがあり、それらはどうすれば乗り越えられるか。顧客の支援を始めるにはまずこの「成功モデル」を組織として持っていることが重要だ。
最初から幅広い顧客の課題を解決しようとすると、課題の解き方が間違っていたり、あるいはその課題を解決したとしてもその先に成功がなかったり、ということが起こりやすく、失敗につながる確率が高い。カスタマーサクセスを立ち上げる際には、まずこの「成功モデル」を作り顧客のサクセスまでの道筋を、仮説でもいいので捉えた上で施策を展開していくべきだ。
成功モデルの作り方は3つのステップに分かれる。
- ステップ1:成功顧客のたどった道筋を明らかにする
- ステップ2:失敗顧客がつまづくハードルを洗い出す
- ステップ3:ハードルの乗り越え方を成功顧客・失敗顧客双方から検証する
ステップ1でまだこれといった成功顧客がいないという状態であれば、まずは1ケースでも成功した事例を作るのがカスタマーサクセスの最優先の仕事だと捉えると良い。
結果的にはマニュアルや各種サポートサイトを充実すること自体は非常に重要になってくるケースは多いが、それらの根幹として顧客の成功までの道筋とそれにあたっての課題を検討するフェーズを先に持ってくることが大切だ。
失敗その2:顧客の意見を鵜呑みにする
2つ目のよくある失敗が「顧客の声を鵜呑みにしてしまう」ことだ。カスタマーサクセスを立ち上げると、連日のように既存顧客との打ち合わせが入り、サービスを使いこなせずに困っている顧客と会話し続けることが多くなるだろう。この時によくあるのが、顧客に言われたことをそのまま支援やサービスに反映させてしまうということだ。
当社で実際にあったのは、顧客から「他社事例を教えてほしい」という要望が多かったので、まとめて事例を紹介するセミナーを開催したというエピソードだ。顧客の要望から実施したこの施策だったが、蓋を開けてみれば集客はあまり振るわず、何度か開催した後、開催は取りやめてしまった。
これは「顧客は自らの要望を言語化できない」ということを表した典型例だろう。
後から振り返って分かったことだが、この他社事例セミナーについては、本当の顧客の要望は「他社事例が知りたい」ではなく「自社での使い方のイメージを持ちたい」だった。ただそれを直接的に担当者に聞くのははばかられるため、他社事例を聞けば自社での活用のヒントがあるかもしれないと思って「他社事例を教えてほしい」というような発言につながっていたのだ。
顧客は自らのニーズを正確に伝えてくれるわけではない。図3はあるべき顧客対応をフレームとしてまとめたものだ。
このように顧客の発言からすぐに対応に裏返しせず、顧客の行動や発言を受け止めてその背景にある状況やニーズを推察・ヒアリングすることが施策を考えるうえで非常に大切なポイントだ。
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