カスタマーサクセス立ち上げ、どうしてつまづいた? “3つの失敗”から学ぶ心得:“顧客との付き合い方”のデザイン法(2)(3/3 ページ)
サブスクリプション型の事業を持つ企業にとって、顧客の解約率を下げて売り上げを最大化するため、カスタマーサクセスの考え方は重要だ。カスタマーサクセスの立ち上げ経験を持つ筆者が、立ち上げの際に陥りがちな3つの失敗とその理由について解説する。
失敗その3:解約率だけをKPIにする
最後に3つ目の失敗が「解約率だけをKPIにしてしまう」だ。「解約率を下げるためにカスタマーサクセスを立ち上げる」というパターンが最も一般的であるため、解約率を組織の最重要KPIとして活動することは多い。
もちろん組織として解約率や既存顧客からの収益を追うのは必須なので、それ自体に問題があるわけではない。ただし、組織の活動までKPIの解約率からダイレクトにブレークダウンしていくと問題が起こる。
例えば解約率の低下を意識した結果、3カ月後に更新を控えている顧客に片端から連絡をとり、契約の意思や今からできる支援がないか模索する、といった活動を行うことがよくある。
しかしながらサブスクリプションサービスの解約意思決定は、そのような付け焼き刃の活動で変化させられるものではなく、契約期間全体の成果、もっというと契約以前からの顧客体験によって決まるのだ。従ってそのような活動は無意味どころか顧客体験を毀損するため、逆効果だ。
カスタマーサクセスは足元の活動が経営指標に現れるまでに時間がかかるのが大きな特徴である。
マーケティングやセールス活動は3カ月単位で経営指標にひも付くPDCAが回る一方、カスタマーサクセスでは目の前の顧客の利用開始を支援したとして、その結果が経営指標に現れてくるのは次の更新タイミングなので半年後や1年、場合によっては3年先というケースもあるだろう。カスタマーサクセスにとって解約率などの経営指標は遅行指標なのだ
だからこそ、カスタマーサクセスでは経営指標としてのKPI以外に、足元の活動が正しく稼働しているかを検証し、PDCAを回すための活動KPIまたは中間KPIが必要だ。
当社では、カスタマーサクセスの活動KPIとして「成功社数」を設定している。過去、解約率だけを追った結果、効果的な活動にならなかったことを反省し、解約率と相関が認められるスコアによって企業の「成功度合い」を可視化している。そのスコアで一定基準を満たした企業の社数をいかに増やすか、というのが日々のカスタマーサクセス活動の指針になっている。
このように、日々の顧客への支援に関するPDCAを回しやすくすること、その結果として経営が狙うKPIである解約率の低下が実現できるような仕組みを作ることが可能だ。
カスタマーサクセスは新しい組織であるがゆえに、立ち上げにはさまざまな苦労が伴う。失敗せずに立ち上げを行うのは不可能であるという前提のもと、立ち上げたカスタマーサクセスの活動がうまくいっていないと感じた時に、振り返るチェックポイントとして本稿を活用いただければ幸いである。
著者紹介:礒野亘(いそのわたる)
株式会社ビービット カスタマーサクセス
京都大学経済学部を卒業後、ビービット入社。コンサルタントとして教育・メディア・金融など50以上の企業でUX改善・成果向上に従事。その後、UXコンサルティングプロジェクト責任者を経て2018年よりUXチームクラウド『USERGRAM』のカスタマーサクセス立ち上げ・運営に携わる。累計300社以上のUX企画推進・人材育成を支援し、2021年よりインサイドセールス責任者。
株式会社ビービット:https://www.bebit.co.jp/
Twitter:@wataridori89102
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