崩れる金融事業モデル、その先にあるもの 〜JAMP大原氏に聞く(4/4 ページ)
金融業界が大きな変換期を迎えている。地銀においては長引く低金利、地方の衰退などもあり多くが赤字化した。足元は株高で堅調にみえる証券業界も、手数料無料化の流れは着々と進んでおり、いずれもこれまで利益を上げてきた事業モデルが崩れつつある。ではそれぞれの金融機関には、どのような選択肢があって、どんなチャンスがあるのだろうか。
――事業モデルが変わらざるを得ない中、秋に予定されている金融サービス仲介法制では、さまざまな事業者が仲介業者として金融サービスを提供することが可能になります。このインパクトをどう見ていますか。
構造変化は不可避です。どんどん水平分業にならざるを得ません。業界によって切り分け方が違いますが、例えば生保業界では「ほけんの窓口」など、業界横串で販売を行う例が増えてきています。証券以上に進んできたともいえるでしょう。
自前の営業を持つことについては、証券も保険も、数年で再考する動きが出てきます。自分たちの母体の商品しか売れない現状から、製販分離が進むと身動きが取りやすくなるはずです。地銀、そして保険代理店。これら8万店舗くらいがほとんど投信などを取り扱っていません。ここが新たな商品を取り扱うだけでも大きな変化になります。
ただし秋に予定されている金融サービス仲介業への過度の期待は禁物です。従来の法制度では証券会社にコンプライアンスに関する責任を持ってもらえました。販売事業者は、指導を受けながら自由に活動できるのでスモールスタートが可能だったのです。
仲介業になると、いろいろなところと提携できて商品を販売できる良さはありますが、それぞれのIFAや保険会社が、自社で損害賠償請求などに対応しなくてなりません。たくさんのところと提携しても、実は取り扱える商品は同じようなものです。オンラインはともかく、対面販売では効果は限定的でしょう。
――プラットフォーム提供や他社との協業以外にも、スマホ証券やネオバンク、チャレンジャーバンクなど、事業をアップデートしようという動きも出てきています。
スマホ証券についての相談をたびたび受けるのですが、もうける気があるなら止めたほうがいいですよ、と話しています。スマホ証券はUIUX勝負ですが、UIUXはどこもクオリティが高まっていき、いずれ差別化が難しくなっていきます。
手数料無料化の流れの中で、米国のように預かり金の運用金利収入もなく、注文回送もなく、収益源が見えません。唯一可能性があるのは、楽天グループのように、単体でもうからなくていいんだ、経済圏の中でお客さまにハッピーにすごしてもらえればいいというところくらいでしょう。
デジタルバンク、ネオバンクと呼ばれる新しい銀行の形も、国内においては疑問です。エンベデッドファイナンスとの親和性でいうと、購買行動に親和性が高いので、チャレンジャーバンク的なものの需要は広がるのではないかと思います。しかし、それを今からいろいろな事業者が数十億かけてやって、コストをまかなえるのかどうか。
別の観点でいうと、金融のデジタル化が進んだことで、逆に商品の価値のコモディティ化が進んでしまいました。成功のカギは、チャネルを持っているところとうまく組めるかどうかになります。プラットフォーマーになるしかありません。
金融業界は、今後数年でガラガラポンと変わる時期を迎えています。でもその先に、新しいビジネスモデルが構築できれば、利便性の高いサービスと高い成長を両立させられると思っています。
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