えっ、まだ? なぜ日本企業の意思決定は「遅い」のか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
欧米企業の意思決定は速いのに、なぜ日本企業は遅いのか。こうした言葉を聞いたことがあると思うが、本当にそうなのか。
現状維持志向の強い人たち
さて、そこで再び「社内政治」に話を戻そう。
繰り返しになるが、「社内政治」はどこの国にも存在しているので当然、日本企業のなかにも「社内政治」は存在している。しかし、一つだけよその国にはない日本独自の特色がある。それは、組織内で熾烈(しれつ)な足の引っ張り合いをしているプレイヤーの多くが「会社員であり続ける」ことを目標としているのだ。
このような現状維持志向の強いプレイヤーが社内政治にのめりこめば、社内のいたるところで醜い足の引っ張り合いが勃発することは言うまでもない。それぞれが会社員としての立場だけは絶対に守りたいので、自分は安全地帯にいながらライバルのミスや粗相を攻撃する戦い方が主流になるからだ。
例えば、新しいチャレンジや改革に踏み切った人間が、ちょっとでもミスをしようものなら「だからオレは反対したんだ」と鬼の首をとったかのように吊(つ)るし上げる。また、リスクをとって何かを決断した人間を、なんのリスクも取らず、何ひとつ決めていない外野が「軽率だ」「先走りだ」とジャッジだけを下す。
そんな減点主義がまん延する日本企業で、意識決定が遅くなるのは容易に想像できよう。問題提起をしたり、何かを決めるべきだと意見を述べたりするだけで、誰かに足を引っ張られるので、立場のある人間ほど沈黙するし、決断を嫌がる。
日本の会議がなかなか物事を決められないのは、日本人が議論好きだからではなく、会社員としての立場を守るため、「出る杭にならない」というガマン比べの場所になっているからなのだ。
では、そこで次に気になるのは、なぜこんなにも現状維持志向が強いのかということだ。まず大きいのは世界でもかなり異質な「終身雇用」という独特の労働文化だ。これによって「会社員生活=人生」という構図が定着してしまったので、みな生きていくために死に物狂いで会社員の立場を守ることが当たり前になった。社内政治で勝ち抜くことは、人生の勝者になることと同じだし、安定した老後にもつながる道なのだ。
そこに加えて、同族経営がある。国税庁の会社標本調査(2018年度)によれば、日本で活動中の会社の96.3%は同族企業で256万社にのぼる。資本金1億円超えの企業でも約半数は同族経営だし、中小企業でも9割を越えている。
トヨタに入社して「オレは社長になる」と宣言をしても周囲がシラけたムードになるように、日本のサラリーマンは「血縁」「世襲」という、どうあがいても変えられない絶対的な秩序がある現実を受け入れながら働いている。つまり、日本のサラリーマンの勝負は、「現状」を変えていくことではなく、「現状」のなかでいかに楽しく、いかに快適に、定年退職までを過ごすかという勝負なのだ。
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