だらっと横にしてもいいのに、なぜコクヨはビジネスリュックを「立たせた」のか:水曜インタビュー劇場(観察公演)(5/5 ページ)
文具メーカーのコクヨが、ビジネスリュックを発売した。最大特徴は「立つ」こと。「なぜ立たせる必要があるの?」と感じたかもしれないが、ビジネスパーソンの働き方を考えた末に、この構造にたどり着いたという。開発担当者に話を聞いたところ……。
ズバリ、勝算は?
土肥: では、立たせる設計はどのようにして決めたのでしょうか?
伴: カバンを立たせるには、それなりの負荷がかかってしまう。というわけで丈夫な設計が必要になるわけでして、まずツインにしてみました。スタンドの役割をする部分を2つにしたところ、社内からは「カブトムシのハネみたいじゃないか」といった声があったので、このアイデアは却下。
とはいえ、頑丈な設計は欠かせません。強度を高めるために、スタンド部分に固い芯を入れてみました。ただ、実際に背負ってみると、ものすごく重いんですよね。不要なモノを入れないように薄くしたのに、「重いなあ」と感じるモノはダメ。
強度があるにもかかわらず、重さを感じない。そんなカバンをつくるにはどうすればいいのか。ちょっと迷走していたので、カバンメーカーさんに「どうやったら立たせることができますか?」と聞いたところ、「自分たちもやったことがないので、よく分からない」という返事でした。その後も「あーだ、こーだ」と議論していく中で、「スタンド部分を単体で支えるのではなく、面で支えたほうが負荷が分散されるはず」といった意見がありました。
下の写真を見ていただけますか。左の写真は、スタンドだけでカバンを立たせようとしている。しかし、この構造だとスタンドに負荷がかかって、強度を強くしなければいけません。そうすると重くなるので、背負ったときに重い板を持ち歩いているような感覚になる。一方、右のスタンドは面で支えている。このような構造にすることで、負荷が分散される。背負ったときにも「重いなあ」と感じなくなったので、「これでいこう!」と決めました。
土肥: やっとのことで「立たせるカバン」は完成したわけですが、次は売っていかなければいけません。ズバリ、勝算は?
伴: ビジネスバック市場をみると、競合メーカーがたくさんある。ということもあって、新規参入する会社は少ないのですが、「働く」というフィルターを通すとどうなのか。例えば、カバンのデザインがよかったり、つくりがよかったり、機能性が優れていたりといった商品はたくさんある。しかし、仕事で使うことを考えると、置き場に困るんですよね。スタンドバックパックはそんな悩みを感じている人に向けて、つくりました。いまの働き方を考えてつくれば、そこにチャンスがあるのではないかと考えたんですよね。
あ、勝算でしたよね。売れないと、困ります! 第二弾、第三弾の商品をつくるためにも、ファンを増やしていかなければいけません。
土肥: 「床にだらしなく横たわっているカバンが少なくなってきたなあ」と感じることができれば、次はビルが「建つ」かもしれませんね。本日はありがとうございました。
(終わり)
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