中小企業でも始めたい労働保険・社会保険の電子申請:留意点は(4/4 ページ)
労働保険・社会保険関係の電子申請は、数年前に比べて格段に扱いやすくなっており、中小企業でも積極的に利用したいところです。ここでは、電子申請の仕組みと留意点を解説します。
(1)健康保険組合向けの電子申請
健康保険組合は行政機関ではないため、e-Govには対応していません。これまでは、書面か電子媒体による手続きしか方法がありませんでしたが、2020年11月より、マイナポータルを利用した電子申請が可能となりました。ただし、このマイナポータルを利用した申請はAPI申請にしか対応しておらず、申請画面などのUIは用意されていません。e-GovのAPI申請とはまた違った方式になります。
電子申請を行う場合は、健康保険組合のAPI申請に対応した民間のソフトウェアの準備が必要となります。
健康保険組合向けの電子申請は長らく課題となっていましたので、マイナポータルにより共通の電子申請基盤が整ったことは画期的なことです。
(2)どの電子申請方法を採用するのがよいか
電子申請には、3つの方法があることは前述した通りです(図表2)。各企業において、どの方法を採用するとよいのでしょうか。
まず、利用している人事給与システム等がAPI申請に対応しているかどうかを確認してください。対応しているのであれば、それを利用するのがよいでしょう。人事給与システムには従業員の基本情報が登録されており、給与の情報も保存されています。
社会保険の申請においては、それらの情報を利用して電子申請データを作成することができるため、あらためて入力する手間が最小限になります。また、各システムベンダーは効率的な利用のために操作性等を工夫した設計としていますので、e-Govよりも利用しやすい機能になっていることも期待できます。
API申請に対応したシステムがない場合は、新たにその機能があるソフトウェアを導入することも考えられます。クラウドサービスとして提供されているものも多くあり、比較的安価に利用することも可能です。
注意点は人事給与データの連携です。既存の人事給与システムとは異なる電子申請ソフトを利用する場合、データをシステム的に連携できるかどうかは必ず確認が必要です。データ連携に手間がかかったり、手入力になったりするようでは、有償のソフトを利用する価値は半減します。
API申請を利用しない場合、前述したe-Govサイトからの手続きがよいでしょう。すべての手続き種類に対応しており、操作性もリニューアルにより改善されました。人事給与システム等からのデータ連携はできませんが、手続きが頻繁に発生しない企業であれば十分に運用可能と考えます。
届書作成プログラムを以前から利用している企業であれば、その機能からのGビズIDを利用した電子申請を検討してください。
ただし、対応している手続き種類が、現時点では限られているため、書面手続きやe-Govサイト利用と併用した形の運用が想定されます。
ある程度の従業員規模の会社で手続きが頻繁に発生するのであればAPI申請を検討し、それほど手続きが発生しないのであれば、e-Govや届書作成プログラムをまずは利用してみるのがよいと考えます。
今後、テレワークによる業務を想定すれば、労働保険・社会保険業務においては、電子申請の利用が効果的です。
マイナンバーも含めた個人情報の郵送や持ち出しが不要となり、書類の保管や拠点間の受け渡しも電子的に行えます。
企業規模やコストに応じた方法が選択可能なので、より実用的に利用できる電子申請を検討してみてください。
著者:野田 宏明(のだ・ひろあき)
ITS社会保険労務士法人/社会保険労務士・ITストラテジスト
IT企業で人事・給与・社会保険業務のシステムコンサルタントに従事後、社会保険労務士資格を取得。労務管理・手続業務とシステムコンサルタントとしての技術の両面から企業を支援する。
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