飲食店は“大荒れ”なのに、なぜニトリはファミレスに参入したのか:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
ニトリがファミレス事業に進出した。店名は「ニトリダイニング みんなのグリル」。、「お、ねだん以上。」のメニューが並んでいるわけだが、なぜ飲食店に逆風が吹き荒れているタイミングで出店したのか。背景にあるのは……。
ニトリVS. カインズの首都圏決戦
コロナ禍のステイホーム特需が進むなかで、家具小売とホームセンターの境界はほとんどなくなりつつある。家具小売店はホームセンターに近くなっていくし、ホームセンターでも家具や生活雑貨などの製造小売が進んでいる。
そのような意味で、家具小売トップ・ニトリとホームセンター王者・カインズの「頂上対決」は避けられない流れなのだ。
ともに北海道、群馬という地方企業からスタートして、M&Aに頼ることなく自力で全国制覇を成し得るまで成長した点では両社にはどこか似たにおいを感じるが、決定的に異なる点もある。
それは経営の創業家の関与だ。
ニトリはご存じのように、一代でニトリをここまで成長させたカリスマ創業者・似鳥会長が「死ぬまで現役」を宣言し、いまだに強烈なリーダーシップを発揮している。一方、ベイシアの創業家は一歩引いている印象だ。
創業者・土屋嘉雄氏の息子で、カインズの会長を勤める土屋裕雅氏は、昨年末の日経のインタビューで、ベイシアグループの成長は「様々な業態を遠心力によって切り出すスピンアウトの歴史だ」と振り返り、こんなことをおっしゃっている。
「株主としての土屋家はいますが、事業を運営して市場で結果を出す経営陣は色々いていい。カインズの高家正行社長は土屋家ではありませんが、経営のプロとして彼のような人材がいるのはいいバランス感だと思います」(日本経済新聞 20年12月21日)
確かに、好調のワークマンで土屋家である土屋哲雄氏が専務を務めているが、社長として経営を主導しているのは小濱英之氏である。「スピンアウト」している感はある。
このような経営体制の違いが、これからの両社の成長にどのような影響を与えるのか。このような経営の考え方が、これから本格化する両社の対決にどのような影響を与えるのかは非常に興味深い。
軍配が上がるのは、カリスマが率いる「負け知らずの製造物流小売企業」か、それとも事業のスピンアウトを繰り返してきた「孤高の小売集団」か。今後、全国のホームセンター勢力図にも大きな影響を及ぼすであろう、ニトリVS. カインズの首都圏決戦に注目したい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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