サービス産業の苦役に潜む、日本独自の体質とは?:労働人口の半分以上が低賃金(3/3 ページ)
宿泊業や飲食業、卸売・小売業といったサービス産業は、GDPの約55%を占めている。労働力人口で見ても半数以上の人が従事する巨大市場だが、生産性は非常に低いとされている。サービス産業の生産性が上がらない要因、そしてその解決策は何なのか? 度重なる緊急事態宣言により苦戦を強いられるサービス産業が生き抜く術を、染谷氏に聞いた。
DX化で広がるサービス産業の可能性
チェーン店で考えたとき、店長の権限でできることの中には何があるだろうか。売り上げに直結する、立地や席数や単価は本部が決めることだ。自分で変えられる現状としては、スタッフ教育を徹底し、マルチタスクにこなせるシフトワーカーを育て人件費を削る、広告求人費を抑えるあたりがリアルなところだろう。
しかし、DX化により業務の効率化を図ることで、勤続年数に応じて習熟度が増した店長が2店舗、3店舗とマネジメントできるなら、生産性や賃金の大きな向上に期待できる。
KMWの看板サービスであるはたLuckでは、店長はシフト管理(パソコン版でも操作可能)のほか「連絡ノート」という機能にシフトワーカーと共有したい新商品情報などを投稿したり、トークルームでコミュニケーションをとったりできる。
一方、シフトワーカーはいつでも連絡ノートで情報を得られるため作業の習得がスムーズになるほか、「星を贈る」を使って仲間同士で感謝を伝え合うこともできる。「欠員募集」機能で、店長は欠員をスムーズに補充、シフトワーカーは空き時間を有効活用できる点も魅力と言える。
今まで紙や口頭、メールでやりとりしていた重要事項をアプリ上で行い、連絡漏れや業務の効率化を図ることが目的だ。
サービス産業で働くことは苦役か、幸せか?
はたLuckの大きな特徴は、店長や本部だけではなくシフトワーカー全員にIDを発番し、アプリ操作を可能とするところにある。一昔前の“バカッター”騒ぎがいまだ尾を引いており、このシステムに難色を示す店舗もあるというが、DX化にシフトワーカーを巻き込むことに、はたLuckの原点はある。
「一流大学を出て、終身雇用の大手企業に入れば一生安泰。そんな時代は終わりました。自分より早く会社が死ぬこともある中で、じゃあお金以外で働く幸せって何だろうと考えたんです」(染谷氏)。たどり着いた答えは、“勤め先のビジョンと自分のやりたいことが一致していること”だったという。
店舗で働く人全員にアプリを使ってもらうのは、「あなたが必要なんだ」と伝えて、「私の店だ」と思ってもらえるような店づくりをするため。軍隊式に命令がきて、マシンのように物言わず働くことは、幸せとは言い難い。この商品の何が素晴らしいのか、どう美味しいのか、プレゼンすることでお店のファンを作っていくこと。「仕事は苦役ではない。働くことで幸せは得られる」――“WorkをLuckに”という意味のアプリ名は、そんな想いに由来している。
生産性が低いという問題に加えて、コロナ禍の影響が直撃しているサービス産業。客足が遠のく今、店舗は予算を省いて利益を出す必要性に迫られている。積極的にDX化を促進することで、業務効率化はもちろん働き手のエンゲージメント向上を図り、店舗での体験価値を高めることはウィズコロナを乗り切り、アフターコロナを生き抜くことにもつながるはずだ。
関連記事
- 新卒応募が57人→2000人以上に! 土屋鞄“次世代人事”のSNS活用×ファン作り
コロナ禍で採用活動に苦戦する企業も多い中、土屋鞄製造所の新卒採用が好調だ。2020年卒はたった57人の応募だったが、21年卒は2000人以上が応募と、エントリー数が約40倍に急増した。その秘訣を聞いた。 - 70歳定年を導入「ベテランのやる気を高める」企業 等級・報酬をどのように設定したのか
NJSは2019年4月から「70歳定年制」を導入している。その背景や導入経緯、実際の制度をうかがいながら、シニア社員を活用する際に人事担当者が心得ておくべき点やスムーズな導入につながるコツを探っていこう。 - DXに「リスキリング」で対応する “リスキリングする組織”へ転換する4つのステップ
大きな産業構造の転換が起こっている今こそ、人々を成長分野に移動させるための再教育が求められている。そのキーワードが、“リスキリング”だ。 - トラブルを防ぐ「ギャップアンケート」 運用のポイントは?
テレワークであってもオフィスワークであっても、仕事をしている中で、誰しも何かしらの不平不満が出てきます。それらを早いタイミングで把握し、改善・対応することで、先々の大きなトラブルを予防できます。それを解決するものが「ギャップアンケート」です。運用のポイントを解説します。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.