内燃機関から撤退? そんな説明でいいのかホンダ:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/8 ページ)
ホンダは新目標を大きく2つに絞った。一つは「ホンダの二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロ」であり、もう一つは「全製品、企業活動を通じたカーボンニュートラル」。そして何より素晴らしいのは、その年限を2050年と明確に定めたことだ。ホンダは得意の2モーターHVである「e:HEV」を含め、全ての内燃機関から完全卒業し、EVとFCV以外を生産しない、世界で最も環境適応の進んだ会社へと意思を持って進もうとしている。
ただのお題目ではないのか? という疑念が浮かぶが、続く「四輪車電動化」についての発表を見ると、その決意は凄まじい。先進国トータルで30年にはEVと燃料電池車(FCV)を40%まで加速させ、5年後の35年にはそれを80%まで推し進める。さらにその5年後の40年にはこれをグローバルで100%にするという世界でも前例のほとんどない高い目標を掲げた。
特筆すべきは、この比率にはハイブリッド(HV)もプラグインハイブリッド(PHV)も含まれていないという点である。つまりホンダは得意の2モーターHVである「e:HEV」を含め、全ての内燃機関から完全卒業し、EVとFCV以外を生産しない、世界で最も環境適応の進んだ会社へと意思を持って進もうとしている。
三部社長は、自動車のライフをおよそ10年と見て、50年のカーボンニュートラルを見据えて、少なくとも40年には内燃機関の新車販売を完全に終了し、100%をEVとFCV化する、不退転の意思を就任記者会見で発表したのである。そうでなければ100%などという数字を、エンジニア出身でもある三部社長が口にできるはずがない。それはつまり、F1もTypeRもe:HEVも、これまで大切に培ってきた全てを二度と顧みない決意の下、変革に全てを投入するというホンダが創業以来掲げてきたチャレンジ精神そのものである。
ホンダ自身の言葉によれば「創業以来、高い目標を掲げての挑戦こそ、価値創造の源泉」と定義している。そのためにホンダは「売上高の増減に左右されず、今後6年間で総額5兆円程度を研究開発費として投入」することを決めた。具体的にいえば、現在ラボレベルでの成果がすでに明確になっているホンダ独自の全固体電池を、数年後の20年代後半のモデルに採用するという。
こうした三部社長のプレゼンからは、ホンダの凄まじい決意がうかがえる。40年に内燃機関から完全撤退するというスケジュールから逆算すれば、当然30年頃には内燃機関の開発は完全に打ち切ることになるだろう。
新開発の内燃機関を数年だけ販売して終了では、開発費がリクープできない。となれば、現在ホンダで内燃機関を開発しているエンジニアは、残る9年間でEVまたはFCVの技術者にシフトするか、リストラ対象となることになるだろう。また膨大なサプライヤーも同様に、シフトか整理かの二者択一を迫られると考えるのが、会見内容からの常識的な理解になるはずだ。
それだけの痛みの伴う大改革を断行する決意なくして、40年のEVとFCV100%は実現できないことになる。そこまでの決意がよくできたものだと驚愕(きょうがく)を持ってこの発表を受け止めたのだが、続く質疑応答で、その印象はむしろ疑念に染まっていくことになる。以下、公式の記者会見動画から、会見後の質疑応答を主要部分だけサマリーしてみる。
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