市場は伸びていないのに、なぜ日本企業は「ムチャな数値目標」を掲げるのか:スピン経済の歩き方(3/6 ページ)
仕事の目標を設定する際、「ムチャな数値だなあ」と感じたことがある人も多いのでは。そんな「ブラック企業カルチャー」が広がりつつあるのではないか、と感じさせられる動きがある。どういうことかというと……。
過大なノルマを設定
このような人材マネジメント手法を「日本企業の常識」にしたと言われているのが、米国の名経営者ジャック・ウェルチ氏だ。GE(ゼネラル・エレクトリック)の最高経営責任者だった時代に、このストレッチ目標を発案して実施したところ、多くの従業員がこれまで以上の能力を発揮するだけではなく、新たな才能の開花など大きな成果を生み、成長の原動力となったという。そんな成功事例を米国のみならず世界中の企業がマネをした。日本企業の「厳しいノルマ」も、このウェルチ方式が持ち込まれたことが大きいというわけだ。
「なーんだ、じゃあムチャな目標ってのは日本特有の話じゃなくて、米国型資本主義の弊害ってことじゃんか」と感じる方も多いかもしれないが、個人的にはちょっと違うのではという気もしている。日本の「過大なノルマ」は戦前から確認される現象だ。しかも、ウェルチが唱えたストレッチ目標と、日本の「過大なノルマ」は根っこの部分でまったく性格が異なる。
ストレッチ目標というのは基本的に、「成長基調にのって業績が上向いているような企業」がさらに成長をしていくために設定される。しかし、日本企業によく見られる「過大なノルマ」は往々にして、「成長も停滞して追いつめられた企業」の数字的な帳尻合わせのために設定される。要するに「成長を目指した背伸び」ではなく、「低迷をごまかすための尻ぬぐい」なのだ。
そのあたりを非常に分かりやすく体現しているのが、かんぽ不正だ。なぜ全国の郵便局で、現場に強烈なプレッシャーをかけて、詐欺まがいの営業行為を強要していたのかというと、日本郵政グループ自体が非常に苦しい経営状況に追い込まれていたことの「尻拭い」のためだ。
ご存じのように、日本は人口減少によってすさまじい勢いで、各地で過疎化が進行している。これまでは利用客があふれていた郵便局も閑散とするなど環境の激変がザラに起きているのだ。
しかし、直営郵便局の数は2万70(21年3月末)と「ユニバーサルサービス」の名のもと、10年前とそれほど変わらぬ水準が死守されている。日本郵政グループの従業員数は02年から比べると7割程度まで減少しているにもかかわらずだ。
利用者も、従業員も減っているのにサービス拠点の数を減らさないとなると当然、郵便局の経営は厳しくなっていく。慢性的な人手不足で現場が疲弊しながらも、数字的には赤字という負のスパイラルに陥る。そこで郵便でもうけられないぶん、金融商品でもうけようじゃないかということで、かんぽ生命のセールスに過大なノルマが課せられたのである。
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