市場は伸びていないのに、なぜ日本企業は「ムチャな数値目標」を掲げるのか:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
仕事の目標を設定する際、「ムチャな数値だなあ」と感じたことがある人も多いのでは。そんな「ブラック企業カルチャー」が広がりつつあるのではないか、と感じさせられる動きがある。どういうことかというと……。
ムチャなノルマ設定と不正の関係
ここまで言えばもうお分かりだろう。かんぽ不正を招いた「過剰なノルマ」の本質は、ウェルチ氏が唱えたストレッチ目標とはまったく異なり、日本の郵便局が抱えていた構造的な問題をゴマかすための尻拭い的な意味合いがあるのだ。
本質が「低迷をごまかす」といういわば“粉飾”なので、やらされている人たちのモラルは急速にぶっ壊れていく。とにもかくにもノルマが大事、達成するには多少のルール違反も目をつぶる。それが組織内では常識になるので、逆にモラルがあったり、ルールを守ったりする人間は「無能」扱いされる。実際、かんぽ不正の内部調査によれば、ノルマ未達者は朝礼などでさらし者にされ、上司から「お前は寄生虫だ」などとののしられたという。
もちろん、これは日本だけに限った話ではなく、どこの国でもある話だ。例えば、米大手銀行ウェルズ・ファーゴでも、行員に過大なノルマを課してクビなどをちらつかせた結果、顧客に無断で口座を開く不正行為が横行していた。ライバル銀行が投資業務を拡大して業績を伸ばし、劣勢に立たされる中でウェルズ・ファーゴとしてはクロスセールス(抱き合わせ商法)に力を入れて巻き返すしか道がなく、それが現場に押し付けられた。細かな違いはあるが、日本郵政のかんぽ不正とほぼ同じ構図だ。
しかし、日本が特徴的なのは、このような「ムチャな目標」が引き起こす不正があらゆる業界・産業、そして会社の規模を問わずに広がっている点だ。先ほど触れた東芝やスルガ銀行はもちろん、数十年にわたるデータ不正が発覚した神戸製鋼、リコール隠しや燃費不正が続いた三菱自動車、大規模マンションの杭打ち不正が見つかった三井不動産とその下請けなど、目標未達を恐れる現場が自発的に不正に手を染めるケースは枚挙にいとまがない。
なぜこうなってしまうのか。個人的には、令和になってもいまだに「旧日本軍カルチャー」を引きずっている組織が多いからだと考えている。実は戦後経済をけん引して、日本企業の原型をつくった人々の大多数は、国家総動員体制下の「銃後の産業戦士」として軍隊式マネジメントを骨の髄まで叩き込まれている。つまり、われわれは「軍隊文化」を「日本の伝統的企業文化」だと勘違いして現代まで継承してきたのだ。
関連記事
- 日本のアニメは海外で大人気なのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が米国でもヒットしている。このほかにも日本のアニメ・マンガは海外市場で勝負できているのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのか。その背景に、構造的な問題があって……。 - 「緊急事態宣言下に通勤する人」を叩いても、テレワークが普及しない根本的な理由
緊急事態宣言が発令されたにもかかわらず、通勤列車を見ると、たくさんのビジネスパーソンが乗車している。テレワークを実施している企業が増えているはずなのに、なぜ会社で働く人がたくさんいるのか。コロナに対して危機感が乏しいわけでもなく、慣れているわけでもなく……。 - すぐに完売! 1枚焼きの「ホットサンドソロ」は、どうやって開発したのか
食パン1枚でつくるホットサンドメーカーが売れている。その名は「ホットサンドソロ」。新潟県にある「燕三条キッチン研究所」が開発したアイテムだが、どのようにしてつくったのか。担当者に話を聞いたところ……。 - 「世界一勤勉」なのに、なぜ日本人の給与は低いのか
OECDの調査によると、日本人の平均年収は韓国人よりも低いという。なぜ日本人の給与は低いのか。筆者の窪田氏は「勤勉さと真面目さ」に原因があるのではないかとみている。どういう意味かというと……。 - 7割が「課長」になれない中で、5年後も食っていける人物
「いまの時代、7割は課長になれない」と言われているが、ビジネスパーソンはどのように対応すればいいのか。リクルートでフェローを務められ、その後、中学校の校長を務められた藤原和博さんに聞いた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.