西武園ゆうえんちで再確認、観光アクセス鉄道の役割と効果:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/7 ページ)
5月15日、西武鉄道はレオライナーこと山口線で「西武園ゆうえんちラッピング電車」の運行を、19日開業の西武園ゆうえんちのアクセスルートとして開始した。観光地と観光アクセス路線は、力を合わせて発展する。ワクチン接種が終わり、観光が再び活性化する前に、観光地とアクセス路線と整備しておきたい。
アプローチの演出に浸りつつ、入場ゲートの屋根を見上げると、どうやら鉄橋のような作りだ。映画館「夕陽館」の丘から見下ろせば、やっぱり鉄橋だ。廃線の鉄橋跡かなと思って尋ねたら、わざわざ鉄橋をモチーフにして造ったとのこと。なるほど、ここに「鉄道会社系ゆうえんち」というアイデンティティをさりげなく示していた。
レオライナーと西武園ゆうえんちのアプローチを拝見して確認取材は終わった。しかしせっかく招待いただいたので、本題から離れるけれど西武園ゆうえんちの感想を少し。
昭和の鉄橋を模した入場ゲートの先は、アーケードのある夕日の丘商店街だ。ここでは街の人々に扮したキャストが「泥棒と警官」「野菜の叩き売り」「紙芝居」「歌うウェイトレス」などのパフォーマンスを繰り広げる。
感心した1つめは「地面に砂がひいてある」点だ。これはパフォーマンスするときに滑りやすくしたのかもしれないけれど、昭和の商店街はこんな風に埃っぽかった。懐かしい。もう1つは商店街の奥にある銭湯「朝日湯」だ。商店街の人々は忙しくて朝しか風呂に入れないから「朝日湯」という名前にしたという。これも「昭和のリアル」だ。夕日の丘商店街は昭和の郊外に見られた「銭湯まち」である。
「銭湯まち」は、寺がきっかけで門前町ができるように、銭湯がきっかけで作られたまちだ。地主が土地の借主を募るときに、まずは銭湯を誘致した。当時は内風呂がないから、銭湯に人が集まる。そこで銭湯の周囲に商店が作られる。
歴史的に栄えた「門前町」「宿場町」の次に「駅前通り」があり、その郊外に「銭湯まち」ができた。私の母の実家が東京都大田区の駅から離れた銭湯だったから分かる。現在も都内で駅から離れた商店街を見掛けるけれど、そこには銭湯があった。
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