JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」の“短所を生かす”工夫 都市間移動を楽しくする仕掛けとは:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/5 ページ)
JR九州の新型観光列車「36ぷらす3」に試乗した。観光列車先駆者である同社の新型車両は、車窓を楽しむ列車ではない。窓が小さく、景色を見せられない分、車内でのおもてなしに力を入れている。観光都市間を移動する空間を楽しくする、これまでとは違う列車だ。
JR九州について、たのしい列車の話をする前に報告がある。本連載の2020年6月5日付「副業の優等生、JR九州が放置した『傾斜マンション』の罪」で取り上げたマンション「ベルヴィ香椎六番館」については建て替えが決定した。
朝日新聞によると、7月21日に販売側のJR九州と若築建設、福岡商事の企業共同体3者が住民に直接謝罪し、対応策を示すと約束した。共同通信によると、11月8日に住民による管理組合が臨時総会を開いて建て替えを決議した。該当する建物で9割、8棟全体で8割の承認が必要だった。多くの人々に理解されて良かった。
企業共同体はこの決定を受け、21年4月に工事着手、工期は22カ月というから、23年2月頃には建て替えが完了する。ベルヴィ香椎は8棟で構成されており、他の7棟にも瑕疵(かし)があると報じられているけれども、最大の問題だった六番館の解決をきっかけに事態は好転すると期待したい。
私は建設・建築については専門外で、新築分譲の購入と売却の経験があるだけだ。本件については世間に無数あるマンション建設問題の一つというよりも、鉄道会社の副業におけるブランド意識をただす意図があった。安全運行の実績で培った鉄道事業者のブランドを消費者は高く評価し、副業でも同様の信頼を抱いている。それを反故(ほご)にしてはいけない。
副業だから、JV(共同企業体)だからと放置していいはずはなく、むしろJVであればブランドを利用されたともいえる。早く、清く、毅然とした態度で対処し、ブランド低下を防ぐべきだ。要するに「もっと自社の看板を大切にしてほしい」という話である。
この問題を早期から詳しく報じていた企業情報サイト「NET IB News」が、今度は西日本鉄道が分譲したマンションの鉄筋量不足問題も扱っており、11月19日に区分所有者が損害賠償の訴えを起こしたと報じている。西日本鉄道は不動産業でJR九州のライバルでもある。鉄筋不足問題については週刊文春がNEXCO中日本の「手抜き工事」を報じており、掘り出せばキリがないらしい。私からは「せめて鉄道会社は自社ブランドを大切にしてほしい」と願うほかない。
では本題に戻そう。10月10日、新型観光列車「36ぷらす3」の報道関係者向け試乗会に参加した。私がJR九州に対して上記のような批判を展開したにもかかわらず、ご招待いただいた。きっと事態の解決に向けて進んでいたのだろう。そして一応の決着を見て、私も晴れ晴れとした気持ちでJR九州の観光列車ビジネスを紹介できる。
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