2人に1人は不眠症? 「世界一眠れない日本のビジネスパーソン」がつくられていく構造的な理由:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
「眠れない」――。ベッドで横になるものの、なかなか寝ることができないというビジネスパーソンも多いのでは。とある調査によると、日本人の2人に1人は不眠に悩まされているようだが、そもそもなぜ寝ることができないのか。仕事のストレスを抱えていて……。
誤ったイメージが広がった!?
さて、そこで気になるのは、なぜ日本では「睡眠薬代わりの飲酒」がここまで普及をしてしまったのかということだろう。
まず大きいのは、「睡眠薬へのアレルギー」だ。日本では明治・大正期から不眠症が問題となっており、それに伴い睡眠薬も流通していたが、自殺への使用や健康被害が相次いだため「怖い薬」といったネガティブなイメージが強くこびりついてしまったのだ。
例えば、カルモチンは太宰治、芥川龍之介などが自殺を用いた。昭和のスター、田宮二郎も猟銃自殺をする前には、睡眠薬を用いて自殺した。また、睡眠薬を服用した未成年が奇行・非行に走るなどの社会問題も起きた。
こんな恐ろしい薬を飲むくらいなら「自力で解決してやる」という人が増えるのは当然だ。だから、昭和の時代から現在にいたるまで、不眠症になってもすぐ病院に駆け込む人は少ない。
実際、冒頭のMSDの調査でも、不眠症の自覚症状のある人であっても、約7割が「医師に相談したことはない」(69%)と回答している。40年近く不眠状態であることを明かした松本人志さんも病院に行っていないと言っていた。
そこに加えて、日本人が不眠症をなかなか他人に相談できないのは、「不眠症=繊細な人がなる病」という誤ったイメージが昭和の時代に広まって、多くの日本人がいまだにそれを引きずっているからではないか、と個人的には思っている。
例えば、1962年にある音響機器メーカーが、不眠症に悩む人向けに、雨垂れのような音を出して眠りを誘う「スリーピングトーン」という安眠器を発売した。米国で2万台の買い手がついたということで、「読売新聞」でも大きく取り上げられたのだが、注目すべきはそこで製造元の社長が語った内容だ。
「わたしのようなガラッパチや肉体労働者には夜眠れないなんていう人はまずおりません。いうなれば“上流社会”のゼイタク人種――ひまをもてあます有閑マダムとか。あ、これは失礼。それからまた神経質な人とか。みてごらんなさい戦争中に不眠症の人なんかいなかったでしょうに」(読売新聞 1962年11月16日)
不眠症対策ビジネスをしておきながら、なんと偏見に満ちた発言だとあきれるだろうが、当時はこういう見方が一般的だったのだ。その後、80年代からサラリーマンの過労死やうつが深刻な社会問題になっていくが、「繊細な人がなる病」という基本的なイメージに大きな変化はない。
そう考えると、働き盛りのビジネスパーソンはなかなか自分の不眠症を受け入れられないのも納得ではないだろうか。「繊細な人がなる病」であることを認めてしまうと、自分は「心の弱い人間」だと認めることになるからだ。
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