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コロナ禍でも不文律破らず 「シウマイ弁当」崎陽軒が堅持するローカルブランド新連載・地域経済の底力(4/5 ページ)

人の移動を激減させた新型コロナウイルスは、鉄道や駅をビジネスの主戦場とする企業に計り知れないダメージを与えた。横浜名物「シウマイ弁当」を製造・販売する崎陽軒もその煽りをまともに受け、2020年度は大きく沈んだ。しかし、野並直文社長は躊躇(ちゅうちょ)することなく反転攻勢をかける。そこには「横浜のために」という強い信念がある。

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売るのをやめる

 崎陽軒のシウマイをローカルに根ざしたブランドにすべく、野並社長がもう一つ変えたことがある。販売戦略だ。

 以前は全国の百貨店やスーパーなどで「真空パックシウマイ」を販売していたが、これを一切やめた。現在は、通販を除いて、基本的に崎陽軒のシウマイは神奈川県のほか、東京都、千葉県、埼玉県、静岡県の一部店舗でしか買えない。


「真空パックシウマイ」(写真提供:崎陽軒)

 単に売り上げだけを考えれば、全国に販路があった方が良い。しかし、多角展開することがブランド毀損にもつながる。実際、その光景を野並社長は目の当たりにした。

 「以前、友人たちと御殿場でゴルフ合宿をした際に、近所のスーパーへ酒のつまみを買いに行きました。すると、漬物類と一緒に崎陽軒のシウマイが無造作に置かれていました。また、姫路城へ訪れたとき、近くの百貨店に立ち寄ったら、トイレの入り口のすぐ近くにシウマイが山積みになっていました」

 知人からの苦言にも胸を痛めた。横浜で購入したシウマイを手土産に持って帰省すると、近所の食品スーパーでこれと同じものが売っていると、呆(あき)れられたという。「あちこちでシウマイをばらまいてくれるなと言われましたよ」と野並社長は述懐する。

 こうしたことが積み重なったため、野並社長は「売らない」という決断する。

 「シウマイを配送センターに持って行った後は、どうやって売ろうが各店舗の自由で、崎陽軒の目は行き届きませんでした。商品管理できないのであれば、売るのをやめたほうがいいのです。3年かけて、2010年ごろに全国から撤退しました」

 この失敗を糧に、やみくもに販路を広げないことを心に誓った。これはコロナ禍で苦しい今でも変わらない。少しでも売り上げを伸ばすために、全国で売ればいいという考えもあるだろう。実際、他県の名産品で、域外販売するようになったものもある。

 それでも、崎陽軒は目先の利益を求めない。それよりも守るべきはローカルブランドとしてのシウマイである。

 「企業は永続しなければいけません。そのためにはブランドを守る努力を続けていくべきです」

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