コロナ禍でも不文律破らず 「シウマイ弁当」崎陽軒が堅持するローカルブランド:新連載・地域経済の底力(5/5 ページ)
人の移動を激減させた新型コロナウイルスは、鉄道や駅をビジネスの主戦場とする企業に計り知れないダメージを与えた。横浜名物「シウマイ弁当」を製造・販売する崎陽軒もその煽りをまともに受け、2020年度は大きく沈んだ。しかし、野並直文社長は躊躇(ちゅうちょ)することなく反転攻勢をかける。そこには「横浜のために」という強い信念がある。
世界に羽ばたくローカルブランドに
崎陽軒は今後、シウマイという横浜のブランドを海外に発信していくことに力を入れる。その足掛かりとして昨年8月、台湾・台北駅に出店した。初の海外進出である。
「現地での売り上げに加えて、日本におけるインバウンド需要を喚起することが目的です。台湾で崎陽軒のシウマイの認知度を高め、台湾の人たちが日本に来たときにうちの商品を買ってもらいたい」
海外展開は以前から構想しており、野並社長の悲願だった。ローカルに根ざすと言いながら、グローバル展開とは矛盾しているのではと思うかもしれない。「ローカルブランドだからこそ、世界でも通用するのです」と野並社長は断言する。
こうした考えに至ったのは、かつて大分県知事を務めていた平松守彦氏の教えによるものだという。平松氏は1980年から地域活性化プロジェクトとして、「一村一品運動」を展開。大分の各市町村において特産品作りを奨励した。この運動の基本理念が「真にローカルなものがインターナショナルになり得る」という発想だった。
典型的な例が、アルゼンチン・タンゴである。ブエノスアイレスの片田舎の民族舞踊でしかなかったものが、今では世界中の人たちが楽しむ音楽になった。当時、平松氏から直接この話を聞いた野並社長は、「崎陽軒は真にローカルなブランドを目指していこう」と心に誓った。
「本当においしい食べ物であれば、世界中の人が食べてくれるはずです。ローカルブランドだからといって、海外に出ないのではなく、チャレンジしていきたい」
横浜のシウマイを世界へ——。いつの日か、海外からシウマイを買い求めて横浜にやって来た外国人観光客が、笑顔でシウマイに舌鼓を打つ光景を目にしたい。そんな日を夢見て、崎陽軒の挑戦は続いていく。
著者プロフィール
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
関連記事
- 神奈川県の住みここちランキング 3位「横浜市青葉区」、2位「横浜市西区」、1位は?
神奈川県の「住みここち(自治体)ランキング」。1位は? - 神奈川県の住みここちランキング 2位「葉山」、3位「横浜市青葉区」を抑えて1位となったのは?
神奈川県の住みここちランキングの結果は? - 午後7時閉店でも店長年収1000万円超え! 愛知県「地元密着スーパー」絶好調の秘密
愛知県東三河地方だけに5店舗しか展開していない「絶好調」のスーパーがある。「社員第一主義」を掲げ午後7時には閉店しているのに、店長の年収は1000万円を超える。その秘密に迫った。 - お金なし、知名度なし、人気生物なし 三重苦の弱小水族館に大行列ができるワケ
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。その秘密に迫った。 - JR東海の新型車両「N700S」7月1日運行開始 ミルクボーイや崎陽軒との「Supremeコラボレーション」でPR
JR東海は、7月1日にフルモデルチェンジをする東海道新幹線の新型車両「N700S」のデビューに合わせた「Supremeコラボレーション」の実施を発表した。 - リニアを阻む静岡県が知られたくない「田代ダム」の不都合な真実
静岡県が大井川の減水問題などを理由に、リニア中央新幹線の建設工事に「待った」をかけ続ける一方で、「黙して語らない」大量の水がある。静岡県の地元マスコミも触れられない「田代ダム」の不都合な真実を追った――。 - JR東海の新型車両「N700S」 プロモーション第2弾を展開
JR東海は、7月1日にデビューした東海道新幹線の新型車両「N700S」の宣伝展開第2弾を発表した。 - 内気な野球少年が悲しみを乗り越えて大人気水族館の「カピバラ王子」になるまで
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。 - ホリエモンが政治家に頭を下げてまで「子宮頸がんワクチン」を推進する理由
ホリエモンはなぜ「子宮頸がんワクチン」を推進しているのだろうか。その裏には、政治に翻弄された「守れるはずの命」があった。 - ドラゴンボールの生みの親 『ジャンプ』伝説の編集長が語る「嫌いな仕事で結果を出す方法」
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長・鳥嶋和彦さんだ。『ドラゴンクエスト』の堀井雄二さんをライターからゲームの世界に送り出すなど、「伝説」を残してきた鳥嶋さんだが、入社当時は漫画を一切読んだことがなく『ジャンプ』も大嫌いだった。自分のやりたくない仕事で、いかにして結果を出してきたのか。 - 水族館の館長さんが『うんこ漢字ドリル』に感化されたら、こんな商品が生まれました
休日には入場待ちの行列ができ、入館者数の前年比増を毎月達成している水族館が、人口8万人ほどの愛知県蒲郡市にある。飼育員たちのチームワークと仕事観に迫り、組織活性化のヒントを探る。 - フリーアドレスはもう古い 働き方を根本から変える「ABW」の破壊力
欧米の企業が相次いで「アクティビティー・ベースド・ワーキング(ABW : Activity Based Working)」という勤務形態を導入している。簡単にいうと、仕事の内容に合わせて働く場所を選ぶ働き方だ。ABWの創始者であるオランダのコンサルティング会社のマネジャーに、日本企業が働き方を変えて生産性を高めるためのヒントを聞いた。 - ガス会社勤務だった女性が「世界最大級のデジタルコンテンツ会社」を率いるまで
完璧な人間はいない――。だが、仕事も私生活も充実させ、鮮やかにキャリアを築く「女性リーダー」は確実に増えてきた。企業社会の第一線で活躍する女性たちの素顔に迫り、「女性活躍」のリアルを探る。 - 「最近の若い奴は」と言う管理職は仕事をしていない――『ジャンプ』伝説の編集長が考える組織論
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦さんだ。漫画界で“伝説の編集者”と呼ばれる鳥嶋さん。今回は白泉社の社長としていかなる人材育成をしてきたのかを聞き、鳥嶋さんの組織論に迫った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.