EV生産比率を5倍に増やすマツダと政府の“パワハラ”:池田直渡「週刊モータージャーナル」(5/5 ページ)
マツダは、30年時点のEVの生産比率を25%と大幅に上方修正した。ではなぜマツダはそれだけEVの比率を大きく再発表したのかといえば、これは政府によるパワハラの疑いが濃厚である。
スモールとラージの戦略
さて、これらの具体的なエンジニアリングがどうなるかといえば、これは過去に書いてきた通り、シャシーをスモール群とラージ群に分けていくことになる。
直4横置きFFユニットを基本とするスモール群には、MX-30 EVに搭載済みのEVと、そのモーターユニットを使った「ロータリーによるハイブリッド」を追加する。
直6縦置きFRユニットを基本とするラージ群には、直4も加え、さらにPHVを追加する。エンジンは4気筒6気筒ともに、e-SKYACTIV-X、e-SKYACTIV-G、e-SKYACTIV-Dを用意する。ちなみにこのラージプラットフォームの狙いの中心は北米であり、CX-9をさらにプレミアム化して、商品力を向上させることが主目的である。
ラージとスモールでは生産ラインを分けることになるが、それぞれ多彩になるパワートレインをどう処理するのかというと、マツダ得意の混流生産をさらに一歩進め、サブアッセンブリーラインを合流させる形で、EVであろうが、PHVであろうが、委細構わず順不同に組み立てが行える生産体制を構築しようとしている。
それはつまり、仮にEVが思ったより売れず、生産台数が少なかったとしても、ラインの稼働率が下がらないことを意味する。スモールの総数、ラージの総数がそれぞれ辻褄(つじつま)さえ合えば、問題ない。
さて、マツダの戦略への評価だが、筆者は高く評価する。持たざるマツダが無駄なく資産を利用し、個別の商品の販売に左右されない体勢を作り上げるという作戦は安定感のあるものだと思う。
ひとまずラージの最初の一台がデビューするのは21年度中といわれているので、まずはそこまで頑張っていくしかない。そして主力であるCX-9が北米で売れること。それが実現できれば、大きな流れが動き出す可能性がある。経済の不安定さが増す中国と日本との比較においては米国は大丈夫そうだとは見ているが、ここしばらくマツダは作戦を成功させないと厳しい局面が続くと思われるので、推移を十分に見守っていきたい。
筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)
1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミュニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。
以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う他、YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。
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