新型86とBRZ スポーツカービジネスの最新トレンド:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)
トヨタとスバルは、協業開発したFRスポーツカーとして、2012年からトヨタ86とスバルBRZを販売してきた。この2台のスポーツカーがこの度フルモデルチェンジを果たし、袖ケ浦フォレストレースウェイで、プロトタイプの試乗会が開催されたのだ。そこで86/BRZのインプレッションレポートと併せて、何がどう変わり、それがスポーツカービジネスをどのように変えていくかについて、まとめてみたい。
走りの違い
新型BRZで、コースを走り始めると旧型よりクルマが軽く感じる。プロトタイプの参考データで見る限り車両重量はほぼ同等の微増といったところで、実重量が軽くなっているわけではない。
軽く感じるのは、ハンドルとペダルの操作からクルマの動きだしまでの反応速度が早いからだ。これはまさに各部の剛性向上の賜(たまもの)である。20年1月の技術発表(記事参照)にあった通り、シャシーだけでなく、ステアリングのリンク系なども細心の注意を払って高剛性化したのだそうで、その結果はレスポンスの良い身ごなしに現れている。
ステアリングは旧型比で澄んだ印象になった。ガッチリしているのに滑らかで、精度感が上がっている。フロント、リヤ共にタイヤの位置決め性能が上がっており、アシがよくストロークする。モデルと好みによっては、サーキット用としては柔らかすぎると感じる人もいるかもしれないが、筆者としてはかなり好印象だ。
シートの進歩も大きい。新旧共にバケット的にボルスター(フチの出っ張り)で体をホールドするタイプだが、その圧力分布の設定が明らかに良くなっている。座面高も5ミリとはいえ下がっており、これも好印象の原因だ。
体が触れる部分としては、ハンドルもシートも良いのだが、それらの水準を基準にすると、ペダルのカッチリ感や、ばねの反力が少し弱い。演出としてももう少し踏み応えがあった方が、パワフルなクルマを運転している感じがするはずだ。アクセルペダルの反力には人間は結構だまされるので、出力を変えずにばねだけ強くすると、速くなったように錯覚すると思う。
試乗車はタイヤにミシュランのPS4を装着していたお陰も多分にあるとは思うが、全体に走りのレベルは高く、安心感(スタビリティ)と、高運動性能(アジリティ)と横に向ける自在度(コントロール性)が上手くバランスしているといえるだろう。
例えばヘアピンに高めの速度で放り込み、クリップ付近で意地悪にドンとブレーキを踏んでも、ブレーキアンダーは顔を出さない。きちんと減速してくれる。公道のブラインドコーナーで路面に唐突な異変があったとしても回避する余地が残されている。こういう部分は量産メーカーの作るスポーツカーとして立派である。
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