「菅首相辞任」から考える、「トップに向かない番頭」はどんな人か:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
菅義偉首相が退任に追い込まれた。この報道を受けて、「社長の右腕」の皆さんも、さぞガッカリされているのではないか。なぜかというと……。
日本型組織といえば「番頭」
「いや、その前に、全国に番頭なんてそんなにいないでしょ」と笑う方もいらっしゃるかもしれない。が、それはたまたまあなたの周囲にいないだけで、実は日本では番頭がいる組織のほうが多い。日本型組織といえば番頭、番頭なくして日本型組織はまわっていかないという現実があるのだ。
その代表が、日本企業の頂点であるトヨタ自動車だ。同社には小林耕士氏という、豊田章男社長を長年支えてきた番頭がいる。比喩とかではない。2020年4月から小林氏本人もオフィシャルにそう名乗るし、周囲もそう呼ぶ。
『3月まで“代表取締役副社長"という肩書きだった小林の名刺には、今“代表取締役"も “Chief Risk Officer"も書いておらず“番頭"とだけ書いてある。豊田社長から、その役割が一番しっくりくると言われ4月からそうなった』(トヨタイムズ 2020年6月15日)
ちなみに、小林氏は豊田社長が入社したころの「鬼の上司」(同上)で30年以上、近くで仕事をしてきた。トップのビジョンを誰よりも理解し、時に周囲が忖度(そんたく)・萎縮しがちな創業家のプリンスに対しても、厳しい苦言を呈せる立場という点では、確かに紛れもない番頭と言えよう。
こういうスタイルはなにもトヨタが特殊なわけではなく、日本型組織の王道中の王道スタイルである。強烈な個性を持つトップ、強いリーダーシップで組織を牽引するトップの横には必ず女房役ともいう「大番頭」がいるのだ。
有名なところでは、本田技研工業の創業者・本田宗一郎氏を、財務面で支えた藤沢武夫氏だろう。あるいは、松下電器産業(現パナソニック)の創業者・松下幸之助氏をやはり経理や海外事業などでサポートした、高橋荒太郎氏もよく知られている。
もちろん、これは大企業だけではない。日本企業の99.7%を占めている中小企業も番頭なくしては回らない。17年版中小企業白書の「組織形態別に見た、経営者を補佐する人材の有無」によれば、中規模法人の73.4%、小規模法人の65.7%、個人事業者の53.5%が「社長の右腕がいる」と回答をしている。
個人事業者や小規模事業者の経営者などの場合、なかなか信頼できる側近がいないとか、悩みを1人で抱えて孤独だ、という話をよく聞くが、実は番頭に支えてもらっている経営者もかなり存在しているのだ。
また、その「社長の右腕」について、個人事業主や小規模事業者はやはり「子ども」や「親族」というファミリービジネスっぽくなってしまうのだが、中規模法人の場合は65.5%が「親族以外の役員・従業員」となっている。つまり、日本の会社は、規模が大きくなればなるほど、トヨタの小林氏のように、創業者一族を支える番頭が増えていく傾向にあるのだ。
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