サントリー新浪社長を叩いても、「45歳定年制」が遅かれ早かれ普及するワケ:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
サントリーホールディングスの新浪剛史社長による、「45歳定年制」の提言が波紋を呼んでいる。「サントリー不買」を呼びかける人も出ているが、ボコボコに叩くのは“正しい”ことなのか。筆者の窪田氏は……。
みんなで等しく貧しくなっていく
終身雇用や護送船団方式など日本型経営は、ずいぶん昔から海外で「もっとも成功した社会主義国家」などと揶揄(やゆ)されてきた。そのような“日本社会主義共和国”で進められる改革は、だいたい構造的な問題に手をつけるのではなく、「みんなで等しく貧しくなっていく」という方向だ。
つまり、この問題で言えば、65歳定年、70歳定年という既に崩壊した終身雇用システムに執着するあまり、雇用の流動制も高められず結局、若い人たちの賃金を低いままに抑えるという最悪の結末だ。
「日本がそんな愚かな道を歩むわけがない!」と怒る人もいるだろうが、システムを守るために弱者を人身御供するパターンは、“日本社会主義共和国”では決して珍しくない。
例えば、コロナの医療ひっ迫を見るといい。これだけ多くの人が医療を受けられず、自宅療養や救急のたらい回しを強いられているのはなぜかというと、突き詰めていけば「国民皆保険制度」というシステムを守るためだ。
低賃金・重労働・重い社会保障負担で、日本の若い人たちがバタバタと倒れていく中で、形骸化した「終身雇用」という制度だけが宗教にように崇められる――。そんな悪夢のような未来を避けるため、そろそろ日本人も45歳定年制という現実に向き合うべきではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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