上場会社にとってESGのGとは何か、目的は達成できているか:企業価値の向上を株式評価モデルで考える(3/4 ページ)
上場会社にとってのESGのGについては、東証の「コーポレートガバナンス・コード」にその基本が集約されている。このコードを見ると、目的は「企業の持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」だ。そこで「企業価値の向上」について、株式評価モデルを使って確認したところ……?
3――上場企業はコーポレートガバナンスの目的をどのくらい達成しているのか
それでは、日本の上場企業はコードの目的をどのくらい達成しているのか、PBRで見ていきたい。具体的には代表的な日本企業である東京証券取引所第一部上場企業のPBRを確認するため、コロナ禍前の2018年8月末と2021年8月末におけるTOPIXのPBRの分布データを見てみる。
ちなみに2021年8月末のPBRは、TOPIXで1.3、日経225で1.2、米国のS&P500で4.8である。2021年8月末のPBRは、TOPIXで1.3、日経225で1.2、S&P500で3.5である。日本株のPBRは米国株と比べて、かなり低い水準にとどまっている。
TOPIX銘柄のPBRについて、2021年8月での単純平均は2.69、中央値は1.13、2018年8月で単純平均は2.19、中央値は1.16である。TOPIXが時価加重平均のインデックスであることを踏まえると、時価の小さい企業のPBRは高く、時価の大きな企業のPBRが低い傾向にあり、極少数のPBRが極めて高い企業がPBRの単純平均を大きく引き上げていることが分かる【グラフ】。
実は、2021年8月末で、東証一部の企業においてPBRが1以下の企業は961社と全体の44%を占めており、かなり多い。つまり、単純に考えると、これらの企業は「持続的な成長」も「企業価値の向上」も達成できていない。少なくとも投資家はそう見ていることになる。もし、PBRが1以下の企業のコーポレートガバナンスやESGレーティングのGで高評価であったとしたら、手段や制約条件の達成状況は高く評価できるが、残念ながら結果が伴っていないということになる。
もちろん、投資家である株主との建設的な対話がうまくいかずに将来の成長性等が正当に評価されていない(PERが低い、株主資本割引率が高い)だけなのかもしれない。また、たまたま企業の業績が一時的に悪い(ROEが低い、株主資本割引率が高い)というケースもあると思われる。「企業価値の向上」に向けた経営戦略の成果が出るのに多少時間がかかっているのかもしれない。しかし、もし長期間に亘ってPBRが1以下とか低水準である場合は、やはり、コードの目的である「持続的な成長」や「企業価値の向上」は達成できていないということになるのではないだろうか。
従って、こうした低PBR企業がコードに基づいて、形式的に独立社外取締役を増員し、各種委員会を設置し、経営理念を策定したりして、各種コード原則を順守してGで高評価を得て、これで十分としているのであれば論外である。コストをかけて手段や制約条件をクリアしても、肝心なコードの目的である「持続的な成長」や「中長期的な企業価値の向上」を達成していないからである。手段や制約条件を目的化し、そこで立ち止まってはならないと思う。企業の事業戦略で収益の拡大を目指すのが本筋であろうが、事業戦略がうまくいかない場合でも、自己株式取得等の財務戦略でROEの向上や株主資本価値を高める方法もあるのではないだろうか。
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