焼き立てパンは置いていません! パン屋の”当たり前”をくつがえす「時をとめるベーカリー」は、なぜ生まれたのか?:IT起業家がパン屋に(2/4 ページ)
パン屋の魅力といえば、焼き立ての香りが充満する空間でおいしそうにテカテカと光るパンを選ぶことといっても過言ではないだろう。神奈川県・瀬谷駅直結のパン屋「時をとめるベーカリー」はそんなパン屋の常識をくつがえす。「うちには焼き立てパンは置いていません」。どういうことなのだろうか? パン屋の魅力をとっぱらった店はなぜ生まれたのか?
おいしく復活させる秘密は「冷凍技術」
450種類もの冷凍パンをおいしく提供できる秘密はこうだ。昼過ぎに提携パン屋から届いたパンの袋をすぐに閉じて密閉状態にする作業が行われる。その後、袋閉じしたパンをマイナス30度の不凍液が入った冷凍機に入れて一気に冷凍する。パンが乾燥していない状態で密閉状況を作り、すぐに冷凍することで、水分が逃げてパサつくのを防止できるという。本来は肉や刺身の保存に使われてきた技術をパンに応用したのだ。これでおいしさをキープしたまま提供できる。
「家庭用の冷凍庫で凍らせればよくない?」と思うかもしれないが、所要時間の長さがネックに。家庭用の冷凍庫を使うと完全に凍らせるのに3時間ほどかかる。一方、この冷凍機は20〜30分で凍結できるため新鮮な状態を保つことができるという。
パン自体は確かにおいしかった。だが、筆者には「焼き立てパンの香り」や「多種多様なパンがずらっと並ぶ光景」などパン屋の魅力を取っ払ってしまったような味気のない店に見えてしまい、消費者に根付くのか? オープンしたばかりだから物珍しさでお客が入っているのでは? という疑問が残った。
「時をとめるベーカリーは、これまでのパン屋のように香りや視覚など”五感で楽しむパン”を届けることは難しいです。しかし、今までのパン屋では”仕方がない”と考えられてきた『ブラックな労働環境』と『廃棄によるフード・経営ロスの削減』を解決できます」(ハットコネクト代表取締役 中島 慶氏)
IT起業からパン屋の世界に 「パン屋ビジネスは本当にヤバい」
時をとめるベーカリーを立ち上げた、ハットコネクトの中島氏は新卒でリクルートに入社した。求人広告の営業に従事したのち、同僚と2人で起業する。ホームページ制作やWeb広告の代理店業を営むなかで、「給料は増えたけど、社会に大きな影響を与えられていない」というジレンマを抱えることに。
「ITの仕事は40、50代でもできます。今のうちに、もっと社会にインパクトが与えられる仕事がしたいと思うようになりました。マーケットが大きく、面白みがあり、最もきつい業界ってどこだろうと考えた時に思いついたのがパン屋だったんです」(中島氏)
パンの移動販売を運営するエッセングループに営業として入社後、すぐに業界が抱える2つの課題に直面することになる。
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