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焼き立てパンは置いていません! パン屋の”当たり前”をくつがえす「時をとめるベーカリー」は、なぜ生まれたのか?IT起業家がパン屋に(4/4 ページ)

パン屋の魅力といえば、焼き立ての香りが充満する空間でおいしそうにテカテカと光るパンを選ぶことといっても過言ではないだろう。神奈川県・瀬谷駅直結のパン屋「時をとめるベーカリー」はそんなパン屋の常識をくつがえす。「うちには焼き立てパンは置いていません」。どういうことなのだろうか? パン屋の魅力をとっぱらった店はなぜ生まれたのか?

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パンを冷凍するだけで、本当に全部解決できるの?

 「フードロス」「ブラックな労働環境の改善」「提携パン屋の取引額低下」これらの問題は、パンを冷凍するだけで本当に解決できるのか?

 まずはフードロス問題。「全国のパン屋の1日の廃棄量は生産量の10%弱といわれています。しかし、ロス問題は、パンを廃棄するという物理的なロスと、経営上のロスという2つの指標があると考えています。例えば、100円のパンを閉店前セールで50円にして売り切ったとします。物理的なロスはゼロですが、経営上のロスが発生します。ゴミ箱にパンを捨てないからいいわけではない。経営を圧迫していることも大きなダメージです」(中島氏)


ロスは、物理的なロスと経営上のロスに分けられる(画像:ゲッティイメージズ)

 パンをおいしい状態で冷凍することで、品質を保つことができ、割引販売も必要ない。冷凍パンの賞味期限を測る実証実験では90日間の保存が可能と判明した。これで、廃棄問題はおおむね解決。

 そして、冷凍パンが広がっていくことが「ブラックな労働環境の改善」や「提携パン屋の取引額低下」の解決につながるという。

 労働環境がブラックになる最大の理由は、通常のパン屋のピークタイムが「朝」という点にある。午前7時、8時の開店と同時にお客が押し寄せるため、それまでに全種類のパンを用意しておく必要があるのだ。しかし、冷凍パンが普及すれば「納品時間」の概念が消える。納品後、冷凍して店頭に並べておけばお客が何時に来てもパンがある状態を保てるのだ。朝の2時から働く必要がなくなり、労働問題から解放される。

 また、「提携パン屋の取引額低下」の解決にもつながる。通常のパン屋では置けるスペースが限られていたものの、冷凍してしまえば、型崩れも気にせず冷凍ケースに詰め込むことができる。実際、時をとめるベーカリーの冷凍ケースにはあふれんばかりの冷凍パンが敷き詰められていた。


冷凍ケースには、パンが敷き詰められていた

 商品から労働環境まで、パン屋の「当たり前」をくつがえしていく時をとめるベーカリー。お店の顔となるパンが、焼き立ての香りを漂わせながら出迎えてくれないのは少し寂しい気はするものの、この光景がこれからのパン屋の「当たり前」を作っていくのかもしれない。

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