パンデミックでも店舗を“休眠させない” ユニファイドコマースは、小売りの救世主になるか:海外と日本の事例(2/4 ページ)
オンラインとオフラインの垣根を取り払い、全てのチャネルを「統合」する「ユニファイドコマース」は今後、どのような展開を見せるのだろうか。海外と日本の事例を取り上げ、将来を占ってみたい。
オンライン・セッションを利用する際、顧客は自分のIDによるログインが求められるため、スタイリストは過去の購買履歴といった顧客情報に基づいて、顧客一人一人にあわせた接客ができる(顧客の実に80%以上がCueのロイヤルティープログラムに参加しているそうだ)。
また蓄積されたデータを分析して、顧客へのレコメンデーションを行うAIも実装されており、スタイリストはAIによるアドバイスも参考にしながら、顧客とやりとりが可能になる。
さらにユニファイドコマースのプラットフォームがあることで、スタイリストはどのような在庫がどこにあるのかを把握しつつ、顧客へのアップセルやクロスセルも提案できる。こうした仕組みによって、オンライン・セッションの実に60%以上が購入につながっているという。
日本企業もユニファイドコマース戦略に着手 平均購入額が140%上昇
日本でも、ユニファイドコマースを戦略として掲げるアパレル企業がある。50以上のブランドを展開する大手企業、TSIホールディングスである。
TSIホールディングスが20年4月に発表した決算資料によると、同社は直営ECサイトと物理店舗の在庫の一元化を既に実施。実店舗の店頭にない商品でも、ECの在庫を取り寄せて、顧客に発送するというアプリケーションを導入している。
同月には、英国のHero Towers Limitedが開発した「HERO」というツールの導入も発表している。これはオンラインショッピング中の顧客と、実店舗にいる店員をつなぐ対話アプリで、顧客はテキストメッセージ、チャット、ビデオを通じて、店員への相談や在庫の確認などができる。
HEROは既に9カ国語に対応し、世界各国のアパレル企業が利用しているツールだ。米国ではリーバイスやナイキといったトップブランドも導入している。日本国内での販売を行っているトランスコスモスの発表によれば、実店舗の店員がHEROでオンライン接客をした場合、ECサイトの平均コンバージョンは10倍、平均購入金額も140%上昇したという実績が出ているそうである。
TSIホールディングスがWebサイト上で公開している中期改革プロジェクトの計画では、今後のユニファイドコマース関連の取り組みとして、ECサイト上から実店舗での試着予約が行える仕組みの導入や、販売スタッフの活躍の場をオンラインにも拡張する施策を推進することなどが掲げられている。
前者の仕組みは一部で導入を始めていて、試着予約サービスを申し込み、実際に店舗で接客を受けた顧客は55%、そのうち試着後に購入した顧客は80%に達しているという。こうしたユニファイドコマース実現のための機能強化や、ECサイトのリニューアルといったシステム投資に、今後50億円を投資する計画だそうだ。
TSIホールディングスの22年2月期第1四半期(21年3〜5月)決算発表によれば、同社の国内小売のEC化率は35%に達しており、売上高は一昨年対比で119.3%の成長を見せている。特に自社EC事業に限定した場合、売上高は一昨年対比で205.9%と大幅な伸びを示している。売上高の増減はさまざまな要因によって左右されるとはいえ、同社のユニファイドコマースを推進するという戦略は、順調に結果を残しているといえるだろう。
パンデミックでも、物理的な店舗という資産を“休眠”させない
日米2社の例を見てきたが、こうした取り組みが購買体験を豊かにするものであることは間違いないだろう。その意味で、ユニファイドコマースが今後も拡大を続けることは間違いないが、もう一つ大きな促進要因として考えられているものがある。それは言うまでもなく、新型コロナウイルスのパンデミックだ。
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