パンデミックでも店舗を“休眠させない” ユニファイドコマースは、小売りの救世主になるか:海外と日本の事例(4/4 ページ)
オンラインとオフラインの垣根を取り払い、全てのチャネルを「統合」する「ユニファイドコマース」は今後、どのような展開を見せるのだろうか。海外と日本の事例を取り上げ、将来を占ってみたい。
それは「統合」という名前の通り、ユニファイドコマースは本質的に、多様な部門や領域、プロセスを横断することが要求される施策だからである。
Cue Clothingは、ユニファイドコマースをコロナ対策とは位置付けていない。前述のように、彼らの取り組みは10年前、つまりパンデミックが話題になるずっと前から始まっている。コロナ禍はその取り組みを加速させ、また顧客の側にも、ユニファイドコマース型のサービスを受容する姿勢(感染が怖いので出歩きたくはないけれど、よく分かってくれている店員さんと相談した上で買い物したい……など)を定着させたにすぎない。ユニファイドコマースは、あくまで長期的なグランドデザインとして遂行されているのである。
日本では、ユニファイドコマースが単なる新しいソリューションとして紹介される傾向がある。また「バーチャル店舗」や「AIによるレコメンデーション」のように、分かりやすい、あるいは派手な機能の一部が切り取られて、そこにフォーカスしてしまう傾向も見られる。そうした一面だけを見て、ユニファイドコマースを「パンデミックを乗り越える特効薬」と捉えて導入に踏み切ってしまうと、その実現に長い期間と労力が必要となることに頭を抱える結果になるかもしれない。
中途半端に取り組んだ結果、十分な成果が出せずに終わる可能性もある。例えば、前述のCueが実現したオンライン・セッションも、顧客情報と在庫情報を統合し、セッションを担当するスタイリストが各種情報を瞬時に参照できるシステムがなければ、単に「店員とZoomで話せるサービス」で終わってしまっただろう。いずれにしても、表面的な事象を理解しただけでユニファイドコマースに手を付けるのは、逆にそれに対する幻滅をもたらす恐れがある。
これまでもさまざまな企業向けソリューションが、「これさえ導入すれば全て解決する」というような、手軽で簡単な特効薬として紹介され、最後には幻滅されるパターンを繰り返してきた。もちろんそれをきっかけとして新しいソリューションに関心を持つのは悪いことではないが、Cueのように10年以上とは言わないまでも、長期的・全体的な視点からユニファイドコマースに取り組む企業が増えることを願っている。
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