取引先の請求書を電子化させる交渉テクニック:自社だけでなく(2/4 ページ)
自社でいくらペーパーレス化を進めても、取引先が対応していなければ、それに合わせて紙での対応を余儀なくされます。取引先の請求書を電子化させる交渉方法について考えます。
【1】社外的な対応
考慮すべき点として、社内における業務のほかに、社外的な対応にも目を向ける必要があります。自社が請求を受ける場合と、自社が請求をする場合の2つの区分で考えてみます。
(1)取引先から請求を受ける場合の改善テクニック
自社が請求を受ける場合において、取引先に請求を電子化できるか打診してみることは比較的簡単といえます。
これまで取引先に確認を取ったことがない場合は、「当社ではPDF形式の請求書による送付が可能です」というように、押しつけにならないように提案しつつ、「送付の手間や郵送コストも軽減されます」とメリットを伝えることも重要です。請求書等の受取方法については、受付可能な自社の電子メールアドレスを伝えましょう。
慣習による業務サイクルが続いている場合は、当方から歩み寄り、改善が可能なことをアナウンスしておくことは重要です。特に継続的な取引がある場合は、改善の効果も大きいはずです。こうした改善案は、サービス業、若手、新興の小規模事業者が相手の場合には、柔軟に対応してもらえる可能性が高いと思われます。
「セキュリティの問題から電子メールへの添付では送付できない」という取引先には、これに対応できるファイルの受け渡し方法の検討も必要でしょう。
ただし、相手側のシステムの都合上、どうしても郵送に限定されてしまうこともあるはずです。
優先順位としては、事業者間取引で、頻度の高い請求から交渉を進めていきましょう。まずは取引先をリスト化し、電子請求に移行できるかの可能性を探ってはいかがでしょうか。
(2)自社が請求する場合の改善テクニック
自社が請求をする場合も、必要なのは取引先との交渉です。
まずは主要な請求先のリストを作成し、電子化の意向を確認します。「当社では電子化対応の一環として、PDF形式の請求書による電子送付と、将来的には共通仕様の電子インボイスへの移行を見据えて検討しています」とアナウンスすることも一案です。電子インボイスについては、後ほど詳細をお伝えします。
請求を受ける側の都合もありますので、一方的な変更は当然ながら難しいです。どのような請求方法であれば可能なのか、相手の都合も把握しておく必要があります。事業規模、営業担当・経理担当・承認者との関係もよく考える必要があります。
また、業種によっては請求の電子化が難しいこともあるでしょう。例えば、発注側の要望により、指定のフォーマットに記入しなければならない場合です。この場合は取引先の請求の仕組みで制限されてしまい、自社の努力による改善は難しいはずです。また、対消費者取引も電子化が難しい例として挙げられます。
請求書等の郵送が必要である場合には、請求書の郵送代行サービスを利用する方法も考えられます。例えば、日本郵便が提供する「Webゆうびん」のように、PDFデータなどをインターネットにアップロードすると、自動的に電子データを印刷して郵送を代行してくれるサービスがあります。クラウド型の請求書ソフトでも、こうした郵送代行と連携しているサービスがありますので、請求書ソフトの選定の参考にするとよいでしょう。
なお、こうしたサービスを提案すると、インターネットのサービスになじみのない人からは「請求内容が外部にもれないか」と不安の声がたびたび寄せられます。
そもそも、郵送でも電子メールでも、通信の秘密を完全に保証することは困難です。請求書を手渡しや郵送する場合でも、紛失や汚損、盗難や改ざんの可能性があります。つまり、リスクをどの程度許容するかという点で理解を得ることが必要です。
関連記事
- 令和3年度の電子帳簿保存法 「うちは関係ない」とは言えない、2つの注意点
令和3年度(2021年)の税制改正で、電子帳簿保存法が改正されました。これまでと比べると抜本的改革というべき内容です。ただ、留意すべき点が2つあります。 - <基本編>知識ゼロから読める改正電帳法「一問一答」
2022年1月1日施行が予定されている「改正電子帳簿保存法」(以下、改正電帳法)。要件が大幅に改正され、承認制度も廃止になったことで、中小企業も広く対応しやすくなった。しかし、ネット上では“現行法”と“改正法”の電帳法情報が混在している上、国税庁の公式サイトに用意されている「一問一答」は内容がお堅すぎて「解読できない……」という人もいるのでは? 数多くの企業を対象に電帳法コンサルタントを担当している持木健太氏(TOMAコンサルタンツグループ 取締役)に、知識ゼロでも分かる改正電帳法のポイントを聞いた。 - 「ペーパーレスは手段でしかない」 紙をほぼ使わない企業に聞く業務改革のコツ
ウォンテッドリーでは、コロナ禍以前から意識的に紙業務を廃止してきた。経理業務ではほぼ100%、契約業務でも92%をデジタル化しているという。ペーパーレスのメリットや業務フローのデジタル化のコツについて、法務部門の植田貴之さん、 執行役員・コーポレート担当の兼平敏嗣さんに話を聞いた。 - オフィスは3分の1に、紙は年間24.8万枚削減──業務フロー改革の軌跡と、残る課題とは?
IT企業のウイングアーク1stは、約1500坪のオフィスの3分の2にあたる約1000坪を撤廃した。並行してペーパーレス化を進め、年間約24万8000枚分、従来の99%相当の紙の削減を実現した。業務フローを見直すことで、単なるペーパーレスだけではなく、時短と工数削減による業務の効率化を実現しているという。コロナ禍において新しい働き方を実現するため、業務フローの再構築をどのように行ったのか、話を聞いた。
© 企業実務