理由は半導体だけではない 自動車メーカー軒並み減産と大恐慌のリスク:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/3 ページ)
7月から9月にかけて、各社とも工場の操業を停止せざるを得ないほどの減産を強いられた。この問題、本当に理由が中々報道されていないように思う。メディアの多くでは「半導体」が減産の原因だとされてきた。実際のところ、半導体そのものも理由の一部ではあるのだが、あくまでも一部でしかない。生産に大ブレーキをかけたのはもっとごく普通の部品である。
あと数日で、自動車メーカー各社から半期決算が発表されるが、各社ともかなり厳しい結果が予想される。
特に7月から9月にかけて、各社とも工場の操業を停止せざるを得ないほどの減産を強いられた。この問題、本当の理由が中々報道されていないように思うので、今回そこをじっくり解説してみようと思う。
メディアの多くでは「半導体」が減産の原因だとされてきた。実際のところ、半導体そのものも理由の一部ではあるのだが、あくまでも一部でしかない。生産に大ブレーキをかけたのはもっとごく普通の部品である。例えば樹脂の成形部品、プレス加工のブラケットのような、複雑でも高い技術が必要なわけでもない部品が手に入らなくなったのだ。
「そんな部品なら他のサプライヤーからいくらでも調達できるんじゃないの?」と思う人がきっと多いと思う。しかしながら、現代の自動車生産はもっと複雑なシステムを背景に成立していて、個別の部品生産を他のサプライヤーに振り替えたとしても問題は簡単には解決しない。
問題の発生地、ASEAN
順を追って説明しよう。問題の中心は東南アジア諸国連合(ASEAN)だ。ASEANは、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10カ国からなる連合で、その狙いは戦略的な貿易の自由化にある。
といっても分かりにくいので、多少乱暴を承知でいえば、これらの国々と、その協力関係にある国——例えば日本の間では、関税がフリーになる。あるいはフリーにするための協議が行われている。その目的は、ASEANをアジア最大のモノ作り地域に育て上げることである。
モノ作り拠点として見た場合のASEANの最大の魅力は、10カ国の間に経済発展の差があることだ。国民1人当たりのGDPで豊かな国から順に並べてみる。
トップのシンガポールは6万ドル近いが、最下位のミャンマーはわずかに1400ドル。シンガポールのたった2.3%しか、1人当たりGDPがない。1人当たりGDPがイコール平均賃金であるかどうかについては、若干の議論の余地があるかもしれないが、大筋においてASEANという域内経済には、大きな人件費のばらつきがあるのは事実である。
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