理由は半導体だけではない 自動車メーカー軒並み減産と大恐慌のリスク:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)
7月から9月にかけて、各社とも工場の操業を停止せざるを得ないほどの減産を強いられた。この問題、本当に理由が中々報道されていないように思う。メディアの多くでは「半導体」が減産の原因だとされてきた。実際のところ、半導体そのものも理由の一部ではあるのだが、あくまでも一部でしかない。生産に大ブレーキをかけたのはもっとごく普通の部品である。
さまざまな特性を持った国がそろったチーム
クルマのような、総合的工業製品を作ろうとすると、部品ごとにさまざまな適性が求められる。例えば皮革の内装材を手縫いで仕上げなければならないような場面では、高度な設備は要らない代わりに安価な労働力が求められるし、電子部品の生産などでは、安定した電力と高度な加工技術が求められる。樹脂パーツなら、そこそこの設備と安価な労働力が必要だし、エンジン部品などの精密加工が求められる部品には、高額で高精度なロボットを導入できる資本力と、それらをメンテナンスして動かし続ける熟練した技術が要る。
つまりASEANは、部品ごとに求められる技術と人件費の組み合わせが極めてバランス良くそろっている上に、そうやって国際分業を企図する際に非常に都合が良いことに、国間の輸送を行っても関税が発生しない。
しかも、そうやってエリア内に賃金が発生して、国が豊かになれば、域内人口の多さがやがて市場として大きな魅力を持つことになる。
例えば、ベトナムやフィリピンで作っている部品は、技術レベルの高いシンガポールやマレーシアでも生産は可能だろうが、同じコストでは作れない。必要とされる発展度に応じた最適な国を選んで、多くの部品生産を分業させることでクルマのトータルコストが大きく低減されているわけだ。逆にいえば、そうした賃金格差を無視して、上位互換とばかりに豊かな国で生産を始めればクルマの価格はどんどん上がっていってしまう。
どこの自動車メーカーも、原因となった対象国を明確に言うことを避けているが、新型コロナの蔓延で、ASEANエリア内の、あまり豊かで無い国でロックダウンが余儀なくされた結果、部品工場の操業が止まってしまったのである。事態は極めて単純で、豊かな国はワクチンを購入できるのだが、そうでない国はワクチンが入手できない。当然、人件費が安く、比較的単純な部品を作っている国で、生産が止まることになる。
例えばベトナムで部品生産が止まれば、その部品を使って生産されるインドネシアも生産が止まる。インドネシアが止まればシンガポールも止まるという具合に、被害の連鎖は拡大し、それはやがて、日本や米国での生産も止めてしまう。それこそが今回の世界的な大減産の原因である。
つまりASEANは、域内でクルマ作りに必要な全ての適性を持つ国々がそろっている精密なチームであり、同じ事を他の地域に求めてもおいそれと同じようなチームは組織できないし、それぞれが最適な役割を持っているという特性上、相互に役割を変更することも難しい。
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