転換期迎えた中国の「自粛のダブルイレブン」、それでも販売額は過去最高:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(5/5 ページ)
中国のECセール「ダブルイレブン(独身の日)」が終わった。例年と異なり、今年は華々しいイベントや流通額の実況中継はほぼなく、今年の販売額も過去最高だったと発表されたのみ。今年のダブルイレブンは、11日に習主席の演説が公開されるなど異例尽くしで、中国のプラットフォーマーが転機を迎えたことは間違いない。
「盛り上がっていない」わけではない
とはいえ、「ダブルイレブンが盛り上がっていない」わけではなかった。アリババをはじめとするプラットフォーマーは20年から消費者ニーズに合わせてセール期間を調整しており、売り上げはむしろ伸びていることが、アリババの販売額からも裏付けられた。
日本ではダブルイレブンに関する報道は11月11日、12日に集中しているが、セールは実際は10月下旬から3週間にわたって続いており、中国で最も盛り上がるのは、セールの開始日前後だ。
消費者視点でいえば、「全体でいくら売れた」「エコと公共のダブルイレブン」よりも、何が安くなるのか、欲しい商品はいくらになるのかといったルールの方が気になるわけで、盛り上がりのピークが最初にやってくるのは当然だろう。
今年のダブルイレブンで、プラットフォーマーや企業はセールの開始時間を4時間前倒しし、20時にした。これまでは「徹夜のダブルイレブン」といわれ、社会人や学生は眠気と戦いながらの参戦だったし、高齢者はそもそも蚊帳の外だった。
時間の前倒しもあるいは政権への配慮なのかもしれないが、売り上げへの効果はてき面で、アリババのECサイトで一斉にセールが始まった10月20日、消費者間マーケットプレイスの「タオバオ(淘宝)」はアクセスが殺到しすぎて一時接続できなくなった。
中国EC2位の京東(JD.com)も11日14時すぎ、ダブルイレブンでの販売額が3114億元(約5兆5500億円)に達し、過去最高を更新したと発表した。
ダブルイレブンのセールは中国で完全に定着しており、筆者の知人の中国人たちは子どもの紙おむつやトイレットペーパーといった日用品もこの機会にまとめ買いしている。景気の減速が指摘される中、セールで買えるものを買っておこうという空気もある。
消費者を煽るムード、自分たちの力を誇示するイベントを控え、社会に負の影響をもたらさない健全なセールを協調して中国政府の“承認”を得る。アリババが最終的に販売額を発表したのは、5403億元という数字が「過去最高の販売額で中国の消費の堅調さを示しつつ、以前のように大きく伸びたわけではない」という絶妙なラインだったからかもしれない。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
楽天の国内年間流通額の2倍、「独身の日」を支えるアリババの最新技術
中国最大のECセール「独身の日」で、アリババのECサイトは今年4982億元(約7兆7200億円)の取引額を記録。楽天の国内年間取引額の2倍に相当する注文・決済・配送需要が2〜3週間に集中する同セールを乗り越えるために、さまざまな技術がアップデートされてきた。ここでは、2020年のセールを支えた最新技術を紹介する。
「巣ごもり」「国産」「Z世代」、中国ネットセールに見る消費の新潮流
も耳にしたことがあるだろう。では「618セール」はどうか。そもそも知られていない「618セール」だが、「中国の消費の成熟を示す新しいトレンドが出てきて面白い」と聞いたため、自身の情報収集も兼ね、今年のトレンドを紹介する。
アリババ「独身の日」セール、2020年は期間4倍 〜「ニューノーマル」で構造見直し
世界最大のECセール「独身の日」が中国で始まった。売上高を更新し続ける同セールだが、インタネットやEC人口は頭打ちで、構造改革を迫られていた。ここでは、セールの歴史をおさらいしつつ、コロナ禍の「ニューノーマル」が、構造の見直しに好機となっている今年の動きを紹介したい。
6億人が旅行の中国「国慶節連休」、それでも売れる「巣籠もり家電」
中国で「国慶節」の8連休が10月1日に始まった。昨年の同連休では、旅行者数がのべ7億8200人、国内観光収入が6497億1000万元(約10兆円)だったが、コロナ後初となる今回の大型連休で、旅行と消費の動向が注目される。また家電セールも好調だ。
ジャック・マー氏“失踪”直前のスピーチ全文(前編)
2カ月余り公の場に姿を現さず、その消息がさまざまな憶測を呼んでいるアリババのジャック・マー(馬雲)前会長。2020年10月24日に氏が行ったスピーチが、中国の金融当局を批判し、習近平国家主席らの怒りを買ったとの説もあるが、実際の発言と大きくずれた報道も増えている。そこで、筆者訳のスピーチ全文を全2回に分けて紹介したい。