「人口減は技術革新で乗り越えられる」という考え方が、ダメな理由:スピン経済の歩き方(4/5 ページ)
日本の人口減少に歯止めがかからない。『朝日新聞』が試算したところ、政府が想定していたペースよりも7年も早く少子化が進行しているわけだが、この問題はどうすればいいのだろうか。「技術革新でなんとかなる」という考え方もあるが……。
ご都合主義的な発想
よく安倍、菅政権が観光立国を推進していたことを売国だ、反日だと批判している人がいたが、実は日本が直面していた「消費者不足」という国難を乗り越えるための、極めて効果的かつ現実的な施策だったのだ。
しかし、ご存じのように、コロナの世界的流行でこの道はかなり不安定なものとなってしまった。となると、残る道は1つしかない。賃上げだ。
消費者の数がじわじわと減っていく中で、海外からの消費者を受け入れることなく、消費活動の勢いを維持するには、1人当たりの「消費する力」を向上していくしか方法はない。
「年中Go Toキャンペーンをやればいい」「ケチケチせず全世帯にパーって100万円くらい配れば景気がよくなる!」などいろいろな意見があるだろうが、バラマキで経済成長しないのは、この30年を振り返れば明らかだ。
となると、残されたのは、個人の所得向上につながる賃上げしかない。
消費者が減っても、賃金が順調に上がれば消費活動自体が冷え込むことはない。また、企業も労働者の人件費増を価格に反映して、さまざまな値上げが進む。「安いニッポン」から脱却できるうえ、消費者不足という脅威も乗り越えられる、今の日本にとってベストな道だ。
ちなみに、これは日本がスローガンとして掲げたものの、なかなか達成できない「生産性向上」にもつながる。「労働生産性」とは、その仕事がどれだけの付加価値を生み出すかという指標だ。つまり、これを向上するには、価格を上げるか、売り上げを上げなくてはいけないのだ。
だから、「技術革新」は生産性向上にはほとんど影響しない。例えば、生産現場にどんなに最新テクノロジーを導入しても、そこで生まれた商品の価格が安いままで、売り上げも同じならば、労働生産性は上がっていない。単に「作業の効率が上がった」だけである。このパターンが日本企業にやたら多い。多くの経営者が「労働生産性」と「効率性」を完全に混同しているのだ。
世界を見渡せば、多くの先進国、そして最近ではお隣の韓国でさえ、賃上げによって生産性を向上している。しかし、どういうわけか、日本の経営者からは賃上げの「ち」の字もでない。それどころか、コロナ禍での賃上げは日本経済を壊滅させるとまで主張する人もいる。
個人消費がGDPの5割以上を占めるという日本経済の現実から頑なに目を背けて、「技術革新は日本のチャンス!」と、技術力さえ高めれば、この劣勢をひっくり返せるという精神論を唱えている。
このご都合主義的な発想は、80年前に日本を壊滅させて、多くの国民を死に追いやった軍のリーダーたちと丸かぶりだ。
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