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直前になって2年間猶予の電子帳簿保存法、企業はどう対応すべきか? 専門家が語る(2/3 ページ)

大改正となった電子帳簿保存法。電帳法自体の目指す趣旨は大事なことであり、今回の法改正はそれに向けた大きな第一歩だ。一方で、特に電子保存義務については、拙速が過ぎ、影響範囲が大きいこともあり、混乱が生じた。二転三転した流れを振り返ると共に、現場の状況も理解している立場から、小野智博弁護士と、公認会計士の柴野亮氏が語る。

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電子書面の電子保存義務に振り回された

——電子保存の要件緩和とセットで、電子で受け取った書面の電子保存が義務化され、波紋と混乱を呼んだ。1つには、影響範囲が大きく、すべての事業者に関係があるということ。2つ目は手作業でやってやれなくはないものの、何らかのソフトウェア対応が必要で、そこにコストがかかるということ。その上、周知期間が短く、詳細が発表されたのが21年の夏。国税庁はなかなか詳細を明らかにしなかった。各企業は振り回された形だ。


弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所代表弁護士・税理士の小野智博氏

小野氏 企業は本当に困っているのだろうか? 経済的な負担が大きい、インセンティブが小さいという話があるが、本当にそうか。ある企業の取締役会でこの話が出た。ある人がこれはシステム投資だとして「うちはそんな大企業じゃないからこんな投資はできない」と言った。

 でもほかの役員が言った。本当にそうですか、と。紙を止めれば紙代、インク代、郵送費も減る。対応する人のコストも減る。出社しなくてはいけないコストも減る。照会のために紙の原本を探す手間もない。そのコストを計算しましたか。そういう対応サービスの見積もりを取ったか、と。「あ、これは計算してみなければ分からないね」という結論になった。

 第一印象ではお金がかかりそうだが、しっかり検討すると見え方が変わってくる。行政の側も上記のような具体的な利点を周知する活動をもっと行っても良いと思う。企業の側も、経営上のプラスマイナスを具体的に考えてほしい。すると、経済的にマイナスのイメージから変わっていくだろう。

柴野氏 現場で経理をやっていると、紙の処理が本当に大変だった。電子帳簿保存法があるが、こんなに大変だと、やる会社はないよというのが実感だった。当時のメリットは、紙の書類をデータ化すれば保管するための倉庫代が減るということ。しかし、実際はスキャンするコストのほうが大きかった。

小野氏 税務について企業に義務を課す改正では、施行まで2年程度の時間を空けることもある。そういう時間をかけたやり方はあり得た。ただ、今回1年でいこうとしたのは、コロナで急がなければいけなかったからだろう。

「猶予」ではなく「宥恕」

——電子で受け取った書面の電子保存義務については、当初、青色申告の取消リスクもあるとされながら、次第にトーンダウンし、最終的には「2年間猶予する」という形に収まった。

小野氏 今回の税制改正大綱の表現は「猶予」ではなく「宥恕(ゆうじょ)」だ。宥恕が一般的に使われる場面は刑事事件。具体的には、犯罪被害を受けた被害者が、加害者からごめんなさいと謝罪されて、被害を弁償された上で、反省しているということで、示談書を作る。そこに宥恕文言を入れて、寛大な心で許す。刑事処罰を求めないということ。

 分かりやすい一般用語でいえば、アウトなんだけど許してあげる。あくまでも法律は施行されたので義務はスタートしていてアウトである。ただ、準備が大変だという事情があれば、許してあげましょうということだ。やむをえない事情は誰が判断するかというと、税務署長と書かれている。

——宥恕というのは刑事事件以外でも使われる言葉なのか?

小野氏 法令で一般的に使われる言葉ではない。あくまで法律の施行とともに義務は発生しており、それがやむを得ずできない場合に許容するということで、宥恕という表現を使ったのだろう。施行の時期を変えるとなると手続きも大変だし、そういう建て付けにしたということ。猶予ではないので、やらなくてよいという意味でないことには注意が必要だ。

柴野氏 宥恕は、許されているというニュアンス。先延ばしというわけでもなく、改正された電子帳簿保存法自体はスタートしている。

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