五輪目前の北京でオミクロン市中感染、トヨタ、VWなど自動車工場も停止続く:浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/4 ページ)
北京冬季五輪開幕が半月後に迫った1月17日、大会組織委員会は観戦チケットの一般販売を取りやめを発表。中国はコロナ禍初期から首都の北京防衛を最優先し、市民生活を極端に制限する「ゼロコロナ政策」で感染を食い止めていたが、変異型のオミクロン株を阻止するのは難しく、苦渋の決断を余儀なくされている。
天津ではトヨタ工場の操業停止続く
18日には北京市でもデルタ株の感染者が見つかり、今後行動制限はさらに厳しくなりそうだ。
中国では、感染封じのための厳しすぎる規制で既に市民生活に混乱が生じている。
西安市では玄関から外に出た市民が感染対策スタッフに殴られる事件が相次ぎ、腹痛で病院に搬送された妊娠8カ月の妊婦が陰性証明書を持っていなかったため院内に入れず、2時間後に玄関で死産する事件や、胸の痛みを訴えた60代の男性が感染リスクが高いエリアに住んでいることを理由に診療を拒否され死亡する事件が起きた。
天津や上海では、感染者が出たエリアが突然封鎖され、市民が商業施設に閉じ込められたり帰宅できなくなるケースが続発している。
工場の操業や物流にも支障が生じ、経済減速の懸念もくすぶる。西安には韓国サムスン電子の半導体工場や中国EV大手BYDの生産拠点があり、一時生産調整に追い込まれた。
自動車産業の集積地である天津では、独フォルクスワーゲンやトヨタ自動車が現地企業と合弁で運営する完成車工場があり、今月10日から操業を停止している。今月下旬に始まる春節休暇、そして北京五輪もあり生産調整が長引く恐れもある。
現地でこれだけ厳しい対策が敷かれるのは、感染拡大を許すと「対策が不十分」として責任者が処分されるからでもある。
感染対策は人命や経済活動を守ることが目的だが、中国は2年前に感染をいったん封じ込めた成功体験に固執し、ウイルスのアップデートに対策が追いついていないようにも見える。
筆者:浦上 早苗
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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